青年海外協力隊for被災地 OB・OGが福祉施設運営

編集委員・石橋英昭
[PR]

 宮城県岩沼市のJR岩沼駅近くに3月末、2階建ての複合型福祉施設「JOCA(ジョカ)東北」が開業した。天然温泉、ソバ屋、保育園、障害を持つ子どもたちの居場所……。「ごちゃまぜ」の空間を運営するのは、ちょっと変わった経験を持つ若者たちだ。

 延べ床面積2700平方メートルの開放的な建物には、ジムやコミュニティースペースもあり、住民だれもが集える場だ。障害者がスタッフの一部を担い、就労支援の役割を持つ。定員90人の保育園や高齢者デイサービスを併設し、いろんな年代の、いろんな人の交流がコンセプトだ。

 若者たちの正体は、途上国にボランティアで派遣された青年海外協力隊のOB・OGたち。帰国隊員らでつくる公益社団法人・青年海外協力協会(JOCA、本部・長野県)が、市営住宅跡地の活用事業の募集に手を挙げ、14億円でここを建設した。ほかの事業も合わせて、岩沼でのスタッフは100人超。うち約30人は全国から移ってきた帰国隊員だ。

 きっかけは2011年の東日本大震災だった。

 発災直後、帰国隊員らが支援に入った被災地の一つが岩沼市だ。仮設住宅に住み込んで被災者の見守りをし、住民が集団移転の話し合いをするのを、側面から支えた。

 住民や市からは厚い信頼を得た。JOCAは、被災者たちの集団移転先でのコミュニティー支援も託された。15年には、地方創生に関する協定を市と結ぶ。障害者施設3カ所の指定管理者になるなど、「復興後」の布石を打ってきた。

 「地方の少子高齢化が進み、産業の担い手がいなくなり、地域のきずなが薄れている。途上国だけでなく国内に目を向けなくていいのかと、我々に問題意識があった」。JOCA東北代表の北野一人さん(61)は話す。

 海外協力から震災の復興支援へ、そして、国内の地域づくりの助っ人に。JOCAでは岩沼を先行例に、広島県安芸太田町鳥取県南部町などでも、中山間地再生や商店街の活性化に携わる。途上国で現地の人の中に飛び込み、培った現場力、異文化適応能力は、彼・彼女たちの強みだ。

 青木淳さん(42)は千葉県出身。アフリカ・ケニアに派遣され、非行少年の施設でサッカークラブを立ち上げて、2年間教えた。震災直後から岩沼に入り、いまは障害者就労支援に携わる。「地域とのつながりを大事にし、常に相手の目線に立って考える。そうした協力隊経験が生きている」と言う。

 岩沼のプロジェクトの中でとりわけユニークなのが「いわぬまひつじ村」。沿岸部の集団移転跡地3ヘクタールを借り受け、被災住民を巻き込んで放牧場や畑を切りひらいた。4月からは入場料100円をとり、年間10万人を集める一大観光スポットにするのが目標だ。

 東北の小さなまちに刺激をもたらすよそ者たち。岩沼市の菊地啓夫市長は、帰国隊員について「ノウハウを持つ多様な人材が来てくれる、ありがたい存在。移住者増加や雇用創出にもつながっている」と話した。(編集委員・石橋英昭

     ◇

 青年海外協力隊 政府の途上国援助予算で国際協力機構(JICA)が派遣するボランティア。1965年に始まり、延べ4万5千人の実績がある。農業や保健衛生、教育、スポーツなど多分野にわたり、期間は原則2年。20~45歳が応募できる。

 若者の内向き志向や、国内に社会貢献の場が増える中、応募数はピークの1994年度の2割程度まで減った。民主党政権時代の事業仕分けでは「相手国のニーズと合致しない派遣がある」「抜本的見直しを」と指摘されたこともあった。東北6県の派遣実績は、青森465、岩手507、宮城810、秋田420、山形470、福島733人。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら