拡大する写真・図版蒸留器につながるチューブからしたたり落ちるサマゴン=2021年4月11日、モスクワ郊外、石橋亮介撮影

 新型コロナウイルスの流行による外出規制で、ロシアで自家製ウォッカとも呼ばれる「サマゴン」(ロシア語でサマ=自分で、ゴン=蒸留)造りが盛んになっているという。コロナ禍で収入が減った市民が手製の酒で憂さ晴らしとは、なんと根深い社会問題か――と思ったらどうもそうじゃないらしい。現代のサマゴンは、いまや豊かな大人の趣味に発展しているのだという。

 取材のきっかけは、外出規制の強化でサマゴン造りに使う道具の売り上げが急増したという新聞記事だった。大手経済紙RBCによると、ロシアの大手通販サイト「OZON」では昨年1~10月、蒸留器などの売り上げが前年同期の13倍に急増。別のサイトでも、酵母やアルコール度数計の売り上げが急激に伸び、新たにサマゴンを造る人が押し寄せているという。

 しかも、ウォッカを買えない市民が代替手段として密造していた時代と違い、最近は中所得層以上が熱中しているというのだ。

 実は約20年前、記者はシベリアの田舎の村で、友人の父親に自家製のサマゴンを振る舞われたことがある。周りからはやし立てられ一気に飲み干したが、薬品のような臭いと強烈な苦みは飲めた物ではなかった。どうしたらあれが大人の趣味になるんだろうか。

素材の味や香り、追求に魅了

 「昔はやむにやまれずつくっていたし、正しい方法も知られていなかった。君が飲んだのもそういうものだろうね」

 モスクワ郊外のダーチャ(ロシア風別荘)でサマゴンを造りながら、「アズブカ・ビノクル」の名前でユーチューバーとしても活動するパーベルさん(49)は私の話を聞くと、そう解説してくれた。

拡大する写真・図版ダーチャの地下室に並ぶウイスキーだるとパーベルさん。最近はウイスキー造りにも挑戦しているという=2021年4月11日、モスクワ郊外、石橋亮介撮影

 サマゴンは「自家製ウォッカ」と訳されるが、実際は焼酎に近い。純アルコールから造るウォッカと違い、素材の味や香りが残っているのが特徴だからだ。いま、その風味の追求に魅了される人が増えているのだという。

 「今はウォッカが簡単に手に入るし、酔うだけのためにつくる人はほとんどいない。自分の周りでも、つくり始める人は確かに増えているけど、酔っ払いは一人もいない」

 パーベルさんによると、一般的…

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