隣で工藤会元組員がうどん店? 商店街が開業認めた理由
かつて暴力団事務所を追い出し、報復を受けた小倉の商店街が、特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)を離脱した元組員のうどん店を受け入れ、立ち直りを見守っている。出店から3年、専門家が「元組員の更生を社会が支えるモデルケース」と注目する商店街や地元の取り組みとは――。
服役中に決意、組織を離脱
北九州市小倉北区のJR小倉駅にほど近い「京町銀天街」。約60店が軒を連ねる商店街の一角に「元祖 京家」がある。2017年6月、工藤会系組織の幹部だった中本隆さん(55)が開いた。
ある事件で服役中の15年、二十数年間いた組織を離脱した。工藤会によるとされる市民襲撃が相次ぎ、14年にはその一部に関与した疑いでトップが逮捕された。「思うことがあって生き方を変える決心をした」
職探しは難航した。建設や労働者派遣も考えたが、暴力団の影が見え隠れする。そんな世界とは縁を切りたい。なじみのうどん店で、店長に「うどん作りを教えてほしい」と請い、修業を重ねた。うどんは北九州市民のソウルフードの一つだ。
京町銀天街協同組合理事長の辻利之さん(67)は開店の数カ月前、初めて中本さんと会った。「店を出すのでよろしくお願いします」と告げられた。組合の役員たちと話し合い、「言葉遣いがしっかりしているし、更生したい気持ちが伝わり、応援しようとなった」と振り返る。「組員が出入りするのでは」と心配する声もあったが、大きな反対はなかったという。
辻さんは01年2月、京町銀天街で営む日本茶専門店を組員に襲われた。当時、商店街に競売対象の建物があり、買い手がつかないでいるうちに組員が入り込んで事務所と化した。居座りを防ぐため、商店街で落札し、立ち退かせた。約1カ月後、組員が辻さんの店に車で突っ込み、シャッターなどを壊した。組員に対する一審有罪判決は、立ち退かせたことへの「報復」と認定した。
「そんなことがあったので暴力団には免疫があるんです」と、冗談めかして話す辻さんは「立ち直りたいという決意が本物と判断しました。どんな過去を持つ人でも受け入れて見守る。その積み重ねが更生を助けるのではないでしょうか」と言った。
地道に日銭、稼げるか
うどん店近くで美容室「STORE」を営む澤田秀人さん(54)は中本さんの印象を「その世界から完全に抜け出た顔に見えた。うどんで食っていく覚悟が伝わった」と話す。だが、地道に日銭を稼ぐ商いは難しいのでは、とも思った。
その後、中本さんが商店街の行事やボランティア活動に参加する姿を見て「これなら周囲に溶け込めるし、受け入れられる」と確信した。「立ち直ろうとする人を支えないと、食えなくなってまた犯罪の世界に戻ってしまう」と考える。
1932年創業の履物店「カクシン」を経営する岡本勝さん(75)も「元組員であっても受け入れる。そんな街にしたいね」と前向きだ。かつては工藤会の組員が雪駄(せった)を買いに来た。中学の同級生の中に組員がいた。だから、ではない。
「暴力団をやめ、まともになろうとしている。街で出会っても、きちんとあいさつする。私はいろんな選挙にかかわるなどして人を見る目はあるつもり。中本さんは信用できる」
一方で、不安を募らせ警戒する人もいた。
「本当にやめたのか」
「本当に暴力団をやめたのか…
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