孔子廟に土地を無償提供、政教分離違反?最高裁が判断へ

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阿部峻介 西田健作
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 儒教の祖・孔子を祭る「孔子廟(びょう)」の敷地を那覇市が無償提供しているのは、政教分離を定めた憲法に違反するか。この点が問われた裁判で、最高裁大法廷が24日に判決を言い渡す。政教分離をめぐる大法廷の判断は神社に関連するものが戦後5例あるが、儒教の施設が審理対象となるのは初めて。孔子廟は各地にあり、その運営への影響も注目される。

 朱色の建物に赤い瓦。「久米至聖廟(くめしせいびょう)」は、那覇市中心部の公園内にある。孔子の霊を迎える年に1度の祭礼の時だけ、孔子像のある大成殿(たいせいでん)に続く門扉の中央が開き、14世紀以降に中国から渡来した「久米三十六姓」の子孫らが酒を供えたり線香を上げたりする。

 施設は一般社団法人「久米崇聖会(そうせいかい)」が2013年に建設し、管理している。市は論語の講座を開くスペースもあることなどから「体験学習施設」にあたると公益性を認め、年576万円の使用料を無償にした。

 「歴史文化を知らしめるという目的は名ばかりで、実態は儒教を普及させるものではないか」。中国に反発する市民運動家の女性が使用料免除は政教分離に反すると主張し、市を訴えたのが今回の裁判だ。

 争点は、施設の運営に宗教性がどれほどあるかだ。北海道砂川市が神社に市有地を無償で使わせた行為が問題となった「空知太(そらちぶと)神社訴訟」では、10年の大法廷判決が「施設の性格や無償提供の経緯、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らして総合的に判断する」との基準を示した。

 18年の那覇地裁判決はこの判例を踏まえ、違憲と判断した。孔子の霊を迎えるため供物を並べたり、祭礼日だけ門扉の中央を開いたりする宗教的儀式をしているほか、会の正会員を久米三十六姓の子孫に限る閉鎖性があると指摘。「儒教が宗教に当たるかにかかわらず宗教的性格の色濃い施設だ」と述べ、使用料免除は憲法が禁じる「宗教的活動」で全額を徴収しないと違法だとした。

 福岡高裁那覇支部も違憲と認めた。ただ、徴収すべき額は市に裁量があるとして示さなかったため、女性と市の双方が上告した。最高裁の弁論で原告は全額の徴収を求め、市は「儒教は哲学で運営に宗教性はない」と反論している。

他の施設への影響は?

 哲学や道徳と認識される儒教の施設は全国に点在するが、運営の形態は異なり、影響は不透明だ。

 東京都文京区の湯島聖堂。江戸時代の1690年、儒学者・林羅山(らざん)の私塾が孔子廟とともに上野から移り、のちに幕府直轄の学校として昌平坂学問所も併設された。「近代教育発祥の地」といわれる。

 国の史跡に指定され、土地も建物も国の所有だ。公益財団法人「斯文会(しぶんかい)」が管理し、ここで論語や書道の講座を開いている。孔子祭も催すが、国民に論語に触れてもらうことが主眼という。平正路(まさじ)事務局長は「政教分離の問題を指摘されたことはない」と話す。

 栃木県足利市にある史跡足利学校には日本最古の孔子廟があり、佐賀県多久市の孔子廟は国の重要文化財に指定されている。いずれも自治体の所有で孔子を祭る儀式も行う一方で、歴史的遺跡としても知られる。

 多久市の担当者は「創建目的も地域の根付き方も沖縄のケースと違う。判決次第でどんな影響があるのだろうか」と関心を寄せる。

■専門家は「不毛な…」…

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