新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年、米国では飲食業界が特に大きな打撃を受けた。「世界恐慌以来の経済危機」などと記事に書くたび、家族でよく出かけた地元の小さなレストランの店主の姿を思い浮かべた。
暮らしを支え、生きがいをもたらしてきた仕事が、突然制約される働き手のつらさはどれほどのものか。その苦境の比ではないが、客として家族で外食に出かける機会が減り、街の営みを肌で感じられなくなったのはさびしいことだった。
しかし、自然の恵みと、ゆったりと流れる食事のひとときのかけがえのなさは、自宅の食卓でもじっくりとかみしめることができる。あらためてそのことに気付かせてくれた食べ物が、メリーランド州名物の「ブルークラブ」だ。
ワタリガニ科の小ぶりのカニで、メリーランド州に面したチェサピーク湾など、大西洋岸に広く分布する。ワシントンに赴任するまで見たこともなかったが、レストランで蒸したてをいただき、すぐに大好きになった。
店で食べる場合は、辛めのスパイスがどっさり降りかかった状態で運ばれてくる。フォークやナイフなどを使って腹を割ってエラをそぎ落とし、爪の部分は木づちでたたいて割って、細かい肉をほじくり出す。米国人があまり食べないという、ミソのような部分も味わい深い。
楽しみだったカニワゴン
旬は春からだが、20年はち…
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