内視鏡手術の助手はAI、臓器の位置示す 九州で開発中

福島慎吾
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 人工知能(AI)が臓器の位置を医師に教え、内視鏡での手術を手助けする技術を、大分大や福岡工業大、オリンパスなどのグループが開発中だ。手術件数が最も多い胆囊(たんのう)摘出が対象で、5年後の実用化をめざす。病気の診断ではなく、AIが手術を支援する医療技術は世界的にも先進的な試みという。

 内視鏡を使って胆囊を切除する手術の最中、体内の様子を映しているモニター画面に、いくつもの四角い枠が自動表示されている。

 それぞれが示しているのは、胆囊を切除する際の目印となる臓器や、傷つけないように注意すべき胆管の位置など。リアルタイムに判断しているのはAIだ。

 開発にあたっているのは、大分大医学部の猪股雅史教授(消化器外科)や福岡工業大情報工学部の徳安達士教授(情報工学)らのグループ。

 日本医療安全調査機構などによると、胆囊炎などによって胆囊を切除する手術の件数は、全国で年間約12万件。外科手術のなかで最も多いという。しかし、胆囊の近くにある胆管を誤って切るなどのミスが毎年約600件起きており、死亡する場合もある。

 ミスの原因の多くが臓器などの見間違い。手術にはおおむね決まった手順があるが、炎症の程度や脂肪の厚さなど患者によって体内の状況は異なるという。

 大分大は、手術の注意点などを広めようと研修会を開いてきた。しかし、より多くの医師に学んでもらう手立てとして、ベテランの知識と技術を学習したAIが手術を支援するシステムの開発を考えたという。

 一緒に研究にあたる福工大の徳安さんはこれまで、画面を見ながら手術するために遠近感がつかみにくい内視鏡手術の訓練システムを、大分大と開発してきた。ベテラン医師の鉗子(かんし)さばきをそのまま記録して、若手医師に「手」の動きを直接教えるシステムだが、次はベテランの「知」をAIで伝える仕組みを開発することになった。

 AIによる支援システムの開発は2017年からスタート。大分大で実施された約100人分の手術映像をもとに、同大の岩下幸雄講師(肝胆膵(かんたんすい)外科)らがAIが学習に使う素材として約1万枚の画像を用意。臓器の位置をAIに学ばせたという。

 18年12月と翌年9月には、システムを使って実際に手術をした。医師らが同時に臓器を確認しながら、スムーズに実施できたという。研究グループは今後、複数の病院と協力して実績を増やし、5年後の実用化をめざす。徳安さんは「より多くの患者の命を救えると確信を持ってがんばってきた。なんとしても実現したい」と意気込む。

 さらに、胃や大腸の手術でも使えるようシステムを発展させる考えだ。猪股さんは「経験が少なくても、安全な手術ができるよう補助する技術。間違ったところを切ろうとすると自動的にブレーキがかかるなど、安全な手術のためのベースになる」と期待している。(福島慎吾)

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