(食紀行)泥にすむ「盆魚」、命のかけ引き ムツゴロウ@佐賀県鹿島市
潮が引いた有明海の干潟。目をこらすと、むなびれを使って、ぴょこぴょこと動き回る姿があった。コバルトブルーのような蛍光色の斑点が美しい。珍魚ムツゴロウだ。頭を左右にふっているのは、泥の表面の珪藻(けいそう)類を食べているところ。ときおりジャンプするのは、求愛行動。初夏は恋の季節だ。
佐賀県鹿島市の沿岸に広がる干潟で、釣りざおで引っかけてとる伝統漁法「ムツかけ」の名人岡本忠好さん(68)に、技を見せてもらった。始めるのは、潮が引いて2時間ほどたってから。干潟があらわれてすぐは、ムツゴロウもえさを食べたりしていて落ち着かないのだそうだ。「潟スキー」でゆっくりとすべり出す。止まると、長さ5.2メートルのさおを振った。糸の先には、返しのない針が5本ついた手製の「ムツかけ針」。9~10メートル先にいる獲物の先20センチのところに針を落とし、すっと引く。次の瞬間、獲物が宙に浮いた。そのまま岡本さんの周りをぐるりと1回転して、手元に収まった。「警戒心が強いので、気配を消して、いかに自分の間合いまで近づけるかが勝負」。尾っぽに針をかけると暴れて外れてしまうため、狙うのは頭だ。
同じリズムで淡々と続ける。さおが届く範囲でとりおえると、次の場所へ。釣果は1時間に200匹ほど。ほぼ百発百中だが、一度失敗した獲物は再び狙わないのが岡本さんのポリシーだ。「相手だって命がけだから、そのときは私の負け。かかるか逃げられるか、かけひきが何より楽しい」。敬意と親しみをこめ「ムツゴロウさん」と呼ぶ。
かけたムツゴロウは素焼きに…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら