安倍首相「批判の応酬に終始、反省」 会見詳報

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 安倍晋三首相が19日夕に首相官邸で開いた記者会見の主なやりとりは次の通り。

 【冒頭発言】

 首相 通常国会が閉会した。4年前、政権奪回後の最初の通常国会で建設的な議論を行い、結果を出していこう、と呼びかけた。原点は今なお変わることはない。しかし、この国会では、建設的議論という言葉からは大きくかけ離れた批判の応酬に終始してしまった。政策とは関係ない議論ばかりに多くの審議時間が割かれてしまった。国民に大変申し訳なく感じている。印象操作のような議論に対して、つい強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が、結果として政策論争以外の話を盛り上げてしまった。深く反省している。

 また国家戦略特区をめぐる省庁間のやりとりについて、文部科学省が先週、徹底的な追加調査を行った結果新しく見つかったものも含め文書を公開した。これを受け、内閣府の調査も行い、関係する文書などを明らかにした。しかし、最初に調査した段階では、それらの存在を確認できなかった。二転三転したかたちとなり、長い時間がかかることとなった。こうした対応が国民の政府への不信を招いたことは率直に認めなければならない。「信なくば立たず」だ。何か指摘があれば、その都度真摯(しんし)に説明責任を果たしていく。先週も調査結果発表後に参院予算委員会の集中審議に出席したが、4年前の原点にもう一度立ち返り、建設的な議論を行い、結果を出していく、そうした政治が実現するよう、政権与党としての責任を果たしていく。国民から信頼が得られるよう、冷静に一つ一つ丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない。その決意を、国会閉会にあたって新たにしている。

 英国で、フランスで、イランでテロ事件が発生した。テロの恐怖は世界に拡散している。こうした時代に東京オリンピックパラリンピックを3年後に控える我が国にとって、テロ対策の強化は待ったなしだ。テロを未然に防止するため、国際組織犯罪防止条約を締結し、国際社会と連携を強めていく。今回成立した「テロ等準備罪処罰法」は、そのために必要なものだ。今後、通常国会での審議、様々なご指摘などをしっかりと踏まえながら、本法を適正に運用し、国民の生命と財産を守る。そのことに万全を期してまいる。

 天皇の退位に関する皇室典範特例法が成立した。今国会では政府が提出したほぼ全て60本以上の法律が成立した。民法、刑法について、それぞれの分野で1世紀ぶりとなる歴史的な改正が行われた。衆議院の区割り法も成立し、一票の格差を是正するとともに、かねて約束していた衆議院定数の10削減が実現する。改正福島復興特措法のもと、原発事故により大きな被害を受けた福島の生業の復興をさらに加速していく。雇用保険法を改正し、4月から雇用保険料率の引き下げを行った。中小、小規模事業者の負担を軽減する。

 本年の春闘では高い水準での賃上げが4年連続で実現しているが、働く皆さんのさらなる手取りアップをはかる。現在、有効求人倍率はバブル時代をも上回る極めて高い水準にある。この春、高校や大学を卒業したみなさんの98%が無事に就職を果たし、社会人人生をスタートさせた。これは調査開始以来、最も高い水準であります。雇用を増やし、所得を増やす。経済の好循環をさらに力強く回転させていくため、これからも安倍内閣は経済最優先で取り組んでいく。そのカギは、成長戦略の実行、構造改革の断行にかかっている。今国会では全農改革や酪農改革など、8本におよぶ農政改革関連法の全てが成立した。農業を魅力ある成長分野に変え、農家の所得アップを実現する。若者が夢や未来を託すことができる農政新時代を切り開いていく。岩盤のように固い規制や制度に風穴を開ける。

 改正国家戦略特区法も成立した。これまでこの制度を活用して、長年認められてこなかった一般企業による農地取得や、学校教育に民間の知恵を取り入れる公設民営学校も解禁した。千葉県成田市では、国際的な医療人材の育成を目指し、38年ぶりの医学部新設が実現した。国会終盤では、国家戦略特区における獣医学部新設について、行政が歪(ゆが)められたかどうかをめぐり、大きな議論となった。獣医学部はこの50年以上新設が全く認められてこなかった。しかしいま、鳥インフルエンザ口蹄疫(こうていえき)など、動物から動物、さらには動物からヒトにうつるかもしれない伝染病が大きな問題となっている。専門家の育成、公務員獣医師の確保は、喫緊の課題。そうした時代のニーズに応える規制改革は、行政を歪めるのではなく、歪んだ行政をただすものだ。岩盤規制改革を全体としてスピード感をもって進めることは、総理大臣としての私の意思だ。当然、その決定プロセスは適正でなければならない。ですから国家戦略特区は民間メンバーが入った諮問会議や専門家を交えたワーキンググループにおいて議論を進め、決定されていく。議事はすべて公開している。むしろ、そうした透明で公平・公正なプロセスこそが内向きの議論を排除し、既得権でがんじがらめとなった岩盤規制を打ち破る大きな力となる。これが国家戦略特区だ。半世紀ぶりの獣医学部新設についても、審議に携わった民間議員の皆さんは、プロセスに一点の曇りもないと断言している。まさに岩盤規制改革の突破口だ。しかし、この特区制度について、この国会では民進党のみなさんから制度自体を否定する法案が提出された。岩盤規制の改革には抵抗勢力が必ず存在する。しかし、わたしは絶対に屈しません。既得権と手を結ぶことも決してありません。今後とも総理大臣である私が先頭に立ち、ドリルの刃(やいば)となって、あらゆる岩盤規制を打ち破っていく。その決意だ。

 この国会では長年実現してこなかった返還不要、給付型の奨学金制度を新しく創設する法律も成立した。児童養護施設や里親のもとで育った子どもたちなど、経済的に特に厳しい学生を対象にすでに運用を開始している。子どもたちこそ我が国の未来だ。この通常国会はまさに未来を開く国会となった。どんなに貧しい家庭に育っても、希望すれば高校にも専修学校、大学にも進学できる。子どもたちの誰もが夢にむかって頑張ることができる日本でなければならない。若者もお年寄りも、女性も男性も、障害や難病のある方も、一度失敗を経験した人も、誰もが生きがいを感じ、その能力を思う存分発揮することができる、一億総活躍の日本をつくり上げていかなければならない。その本丸はあらゆる人にチャンスをつくることだ。家庭の経済事情にかかわらず、高等教育をすべての子どもたちに真に開かれたものにしていく。リカレント教育を抜本的に拡充し、生涯にわたって学び直しと新しいチャンレジの機会を確保していく。

 これらに応えるため、当然大学の在り方も変わらなければならない。人づくりこそ次の時代を切り開く原動力だ。これまで画一的な発想にとらわれない「人づくり革命」を断行し、日本を誰にでもチャンスがあふれる国へと変えていく。そのエンジンとなる有識者会議をこの夏、立ち上げる。いわば「みんなにチャンス!構想会議」だ。そのための態勢を来月中に整える。憲法施行70年の節目である本年、次なる70年、その先の未来を見据えて、「人づくり革命」の実現に向けて、総合的かつ大胆な戦略を構想したいと考えている。

 2週間後にはドイツG20サミットが開催される。米国、EUのほか、中国、ロシア、韓国など主要国の首脳が集まるこの機会を活用して積極的な首脳外交を展開したい。挑発をエスカレートさせる北朝鮮問題について、日米韓のがっちりとしたスクラムを確認したい。そして、来たるべき日中韓サミットの開催に向けて準備を本格化していく。課題山積ではあるが、内政に外交に、さらに気を引き締めて全力投球していく。

 ――森友学園加計学園の二つの問題で十分に説明責任を果たしたという認識か。「テロ等準備罪」を新設する法案の審議で、与党は委員会審議を省略する中間報告という異例の手法を使って法案を成立させたが、国民の不安払拭(ふっしょく)に向けてどう説明責任を果たしていくか。

 【加計学園問題】

 ご指摘をいただいた問題については、国会において、政府として説明を重ねてきたところではあるが、残念ながら必ずしも国民的な理解を得ることはできていない。率直にそのことは認めなければならないと考えている。

 【「共謀罪」法】

 テロ等準備罪処罰法は、テロ対策について国際的な連携を強化していく上において不可欠な法律であると考えているが、依然として国民の中に不安や懸念を持つ方がおられることは承知している。しかし、この機会にもう一度、私から申し上げておきたいことは、一般の方が処罰の対象となることはない、そして一般の方が被疑者として捜査の対象になることはない、ということは改めてはっきりと国民に申し上げておきたい。これらの法律を実施していくにあたって、国会での議論などもふまえて、適正な運用に努めていく。適正に運用していく中において、我々が申し上げていることは間違いなかった、そう確信していただけると思っている。国民の命と財産を守るための法律だ。国民の命と財産を守るために、万全を期していく考えだ。

 【森友学園問題】

 森友学園への国有地の売却についてはすでに会計検査院が検査に着手しており、政府としては全面的に協力をしていく。国家戦略特区における獣医学部の新設については、文書の問題をめぐって、対応が二転三転し、国民の政府に対する不信を招いたことについては率直に反省しなければならないと考えている。今後なにか指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たしていく。国会の開会、閉会にかかわらず、政府としては今後ともわかりやすく説明していく、その努力を積み重ねていく考えだ。今国会の論戦の反省のうえに立ち、国民の信頼を得ることができるように、冷静にそしてわかりやすく一つひとつ丁寧に説明してきたい。

 ――東京都議選の争点、目標議席数は。この夏に任期が切れる自民党の役員人事、内閣改造人事についてどう臨むか。来年の通常国会で改憲を発議して、次の衆院選と同時に国民投票を行う案の是非は。

 【東京都議選】

 東京都議選は、あくまでも地方選挙であり、現在東京都民が直面している様々な景気の課題、東京独自のテーマが争点になる。自民党においても東京都連が中心となって、都民に身近な政策をしっかりと訴え、一人でも多くの当選を目指したい。いかに暮らしやすい東京をつくっていくか、安全な、そして子育てしやすい、素晴らしい環境のある東京をどうつくっていくか。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてどう都政を進めていくかも議論になるだろう。

 【憲法改正

 憲法改正は自民党立党以来の党是だ。先日、自民党総裁としてのわたしの考え方を示した。これを受けて、党の憲法改正推進本部ですでに衆参の憲法審査会に提出する具体的な改正案の検討が始まっている。自民党としての提案をいまだ国会の憲法審査会に提出をしていない段階だった。現時点ではその後の発議などについて申し上げる段階ではないと考えている。そもそも衆参両院の3分の2を形成すること自体が、そう簡単なことではない。容易なことではない。まずは与野党を超えて建設的な議論を行えるような、そうした自民党提案となるよう、中身の検討を優先したい。

 【自民党役員人事、内閣改造】

 アベノミクスの一層の強化、働き方改革、「人づくり革命」など様々な重要政策において大きな推進力を得るためには、人材を積極的に登用し、政府においてもしっかりとした態勢をつくっていくことが必要。そうした観点も踏まえながら、党役員人事、内閣改造についてはこれからじっくりと考えていきたい。

 ――トランプ米大統領は、中国との間で当初の予想を上回る良好な関係を築き上げた。米中の緊密な関係が日本に悪影響をもたらす懸念は。

 【米中関係

 米中関係が進展すると日本が困るではないかという指摘はよくあることだが、私は全くそうは考えていない。米中の首脳同士が信頼関係を築いて緊密に協力していくことは、世界にとっても、また日本にとってもプラスであると私は考えている。世界の様々な課題に、大国である中国、米国とともに取り組んでいかなければならない。これは例えば気候変動の問題もそうだし、さまざまな課題にともに手を取り合って取り組んでいくことがいま世界で求められているんだろうと思う。たとえば、北朝鮮問題への対応だ。北朝鮮に対して、最も大きなテコを有するのは中国だ。そのためにも、日米、日韓、日米韓で協力を進めるとともに中国とも緊密に連携をしていく必要がある。そのために日本から中国にも働きかける。米中が北朝鮮の問題は世界的な脅威であるという認識を同じくして、同じ方向に向かって進んでいくことが、この問題を解決していく上においても必要だろうと考えている。中国に対しては先般、楊潔篪国務委員が訪日した際、私からも働きかけを行ったが、米国があらゆるレベルで中国と連携して北朝鮮に圧力をかけていくことは、日本にとっても利益になる。いずれにせよ、日本にとって日米同盟は外交安全保障の基軸だ。首脳レベル、大臣レベル、あらゆるレベルにおいて意思疎通を密にして、サプライズがないという関係をつくっていくことも大切だろうと思うし、いまはそういう関係をつくることができていると考えている。米中間においても、日中間においても、それぞれの関係を発展させていくことが、日米両国ともにプラスになっていくという認識で対応していきたい。

 ――加計学園、森友学園の問題を踏まえ、公文書管理法の改正に取り組む考えは。

 【公文書管理】

 公文書管理については、過去から現在、そして未来へと国の歴史や文化を引き継いでいくとともに、行政の適正かつ効率的な運営を実現していく、現在と将来の国民への説明責任をまっとうするうえにおいても重要なインフラであると言っていい。今回の国会審議で公文書の扱いについて様々な議論があった。このことの重要性について改めて認識した。政府としてはその重要性を踏まえ、各行政機関における公文書管理の質を高めるため、不断の取り組みをしっかり進めていく考えだ。

 ――構造改革に向け、先ほどキーワードとして挙げた「人づくり革命」の担当閣僚を置く考えは。成長戦略の観点から、交渉中のEUとのEPA交渉について7月のG20首脳会議までに大筋合意する考えは。将来アメリカがTPPの枠組みに戻る可能性は高いと考えるか。

 【人づくり革命】

 安倍内閣において各省にわたる重要な国家的な課題、例えば地方創生、一億総活躍社会、働き方改革、そうした政策を前に進めていくため有識者会議を設けるとともに、担当の大臣がリーダーシップを発揮し、わかりやすく国民に発信していくことによって政策を推進できたと考えているので、今回の「みんなにチャンス!構想会議」においても考えていきたい。

 【EPA、TPP】

 日本は自由貿易によって高度経済成長を遂げてきた。国境を越えてモノが行き交う、人が行き交うことによって、様々な知見が、あるいは経験が交わり、新しい知恵が生まれ、そして国際社会の荒波の中で競争する中において技術は進歩してきたと言っていい。まさにこのダイナミズムこそが、世界の繁栄や平和の礎だろうと思う。そしてそれは基本的な考え方として、誰にでも開かれていなければならない、そして公正なものでなければならない。日EUのEPA交渉は21世紀にふさわしい、自由で公正なルールをつくり上げる作業だ。現在、東京で詰めの交渉が行われており、できるだけ早期に大枠合意を実現したい。

 TPPはアジア太平洋地域を発展させるために、必要なルールはなにか、参加国は長い時間をかけて真剣に話し合ってきた結果が成果として結実したものだ。11カ国はなんとかこの成果をいかそうとする点で一致している。来月、我が国が主催する高級事務レベル会合でTPPの早期発効のための方策の本格的な検討が始まる。我が国は議長国として各国と緊密に連携し、スピード感を持って、11月のAPEC首脳会合に向けた議論を前進していきたいと思うし、日本がリーダーシップを発揮していかなければならないと責任も感じている。

 日米間においては新たな経済対話を立ち上げた。日米でアジア太平洋のモデルとなるルールの枠組みをつくりたい。日本はあらゆる手段を尽くして、自由でルールに基づく公正なマーケットを世界に生じていく、これからも自由貿易の旗手としてリーダーシップを発揮していく考えだ。

 ――北方領土問題について。元島民の初の航空機による墓参が中止に。共同経済活動の具体的な手続きは滞っているが、現状は。

 【日ロ関係】

 昨年12月の(山口県)長門における日ロ首脳会談でプーチン大統領との間で合意した事項は次々と実現に向かって進んでいると思う。航空機による特別墓参は、島民もご高齢になり、飛行機で行ければという強い思いがある中でロシア側も了解し、昨日か今日のいずれかに実現する予定だったが、国後島の空港が濃霧で航空機が着陸できないため、残念ながら延期となった。今後、元島民の方々とご相談しながら、天候の許す、できるだけ早い時期に墓参を実現したい。

 共同経済活動については先月、官民調査団がサハリンを訪問し、サハリン州知事をはじめとする関係者と詳細な協議を行うなど準備を進めている。今月下旬に官民の調査団が北方領土を訪問し、現地調査を行う予定だ。前回はサハリン、今後は北方四島で現地調査を行う。日ロ双方で関心の高い漁業や観光といった分野でプロジェクトが具体化できるよう有意義な現地調査を行いたい。プーチン大統領とは、7月上旬のG20サミットの際に首脳会談を行うことで一致している。これまでの進展をふまえて率直な意見交換を行い、今までの信頼関係の積み重ねの上に議論を進めていきたい。特別墓参や共同経済活動の実現に向けて弾みを与え、平和条約締結に向けたプロセスを前進させたいと考えている。

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