夏目漱石「吾輩は猫である」137

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 ダムダム弾は近来諸所で製造するが随分高価なものであるから、いかに戦争でもそう充分な供給を仰ぐ訳に行かん。大抵一隊の砲手に一つもしくは二つの割である。ポンと鳴る度にこの貴重な弾丸を消費する訳には行かん。そこで彼らはたま拾(ひろい)と称する一部隊を設けて落弾を拾ってくる。落ち場所がよければ拾うのに骨も折れないが、草原とか人の邸内へ飛び込むとそう容易(たやす)くは戻って来ない。だから平生ならなるべく労力を避けるため、拾いやすい所へ打ち落すはずであるが、この際は反対に出る。目的が遊戯にあるのではない、戦争に存するのだから、わざとダムダム弾を主人の邸内に降らせる。邸内に降らせる以上は、邸内へ這入って拾わなければならん。邸内に這入る尤も簡便な方法は四つ目垣を越えるにある。四つ目垣のうちで騒動すれば主人が怒り出さなければならん。しからずんば兜(かぶと)を脱いで降参しなければならん。苦心の余(あまり)頭がだんだん禿げて来なければならん。

 今しも敵軍から打ち出した一…

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