意識戻ったら鼻先に天井 生き埋め学生、携帯に「遺書」

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 熊本県南阿蘇村にある東海大学農学部阿蘇キャンパス近くの学生アパート。2階建ての1階部分が壊れ、本やノート、いすなどが部屋から飛び出し、散らばっている。建物を囲うブロック塀は崩れ落ちていた。

 ここに住む農学部3年の鷲頭(わしず)朋之さん(22)は16日未明の地震発生時、ベッドに寝転んでテレビを見ていた。ドーンと体が揺れたかと思うと室内の電気が消えた。その後、意識を無くした。「気づいたら鼻の先に天井があった」

 動こうとしても動けない。手に持っていた携帯電話で、両親と2人の兄にあて、「遺書」を打ち込んだ。「いままでありがとう。もう無理かも」

 建物の外から「大丈夫か」などの声をかけてもらった。やがて、レスキュー隊に体を引っ張り出され、助けられた。「自分の名前をよびかけてもらって励みになった」と振り返る。

 警察によると、このアパートなど数棟が倒壊し、学生ら12人が一時、生き埋めになった。16日午前9時半までに全員を救出したが、女子学生1人が心肺停止の状態。1人はドクターヘリで搬送され、残り10人は無事という。

 東海大は16日朝に対策本部を設け、安否の確認を急いでいる。農学部には学生約1千人が在籍し、約830人がキャンパス周辺に住んでいるという。

 同村河陽の周辺には、東海大の学生向けアパートが、地域の組合に登録しているだけで60近くある。同地区に住む村議の市原秀志さん(60)によると、アパートの多くは軽量鉄骨の2階建てで、1階部分が潰れているという。

 地域にはほかに約50戸150人が暮らしていて、ほぼ半数の家が倒壊。市原さんの自宅も1階部分が潰れた。「たまたま、はりがタンスの上に落ちて隙間ができたため脱出できた」

 16日未明の地震では、山の土砂が崩れて阿蘇大橋が崩落した。橋は全長200メートルで同村を流れる黒川に架かる。熊本市内につながる国道57号と村内を通る国道325号が合流する地点にあり、橋のたもとから根こそぎ落ちた。

 阿蘇大橋から100メートルほどにある学生アパートに住む東海大学2年生の仁平悠里子さん(19)は、突き上げるような揺れと対岸の崖が崩落するものすごい音で目を覚ました。まもなく橋が落ちる大音響が起きた。

 用意していた非常用品を入れたリュックだけを背負い、隣に住む友人と手をつないで、大学の野球部寮に逃げた。「朝になって橋が落ちていて驚いた。真っ暗だったので何が起きたか分からず本当に怖かった」。近くの学生アパートは倒壊したり、傾いたりしている。学生は地区の小学校跡地や大学に分かれて避難しているという。自身のアパートも裏の竹林が崩れて、一部が土砂で埋まっていた。「いまだにツイッターなどでの呼びかけに応じない人もいる。無事を確認できるまでは不安です」

 阿蘇大橋近くの宿泊施設「アソシエート」のスタッフの男性は「死にかけた。建物はひび割れ、地面のコンクリートも割れている」。近くに住む別の男性は「縦に横にひどい揺れだった。外に出たら石垣も崩れ、道も寸断されていた」と話した。管理する学生アパートの住民約20人とともに近くの運動場に逃げた。学生や住民ら600人ほどが避難しているという。夜が明けて学生アパートが立ち並ぶ地域を歩くと、多くの建物が半壊や全壊していた。「1階部分が軒並み潰れ、街が沈んでいるようだ」

 同村中松の女性(80)は家の倒壊をおそれて、軽自動車の中で家族3人と一夜を過ごした。横になることもできず、度重なる余震の「ゴーッ」という地鳴りや、家がガタガタ鳴る音で一睡もできなかった。「頭がおかしくなりそう」

 同村河陽の会社員男性(57)は「阿蘇山があり、地震には慣れていると思っていたが、こんなに長くて、大きな揺れは生まれて初めて。ものすごかった」と話した。冷蔵庫や家具はすべて倒れた。ブロック塀は崩れ、庭には地割れが走り、周辺の山々のあちこちで土砂崩れが起きているという。

 同村一関の女性は、家族3人とともに近くのコンビニの駐車場に避難し、車の中で一夜を過ごした。早朝に自宅に戻ったが、家中は物が散乱。電気もガスもとまり、水道も寸断されているという。携帯電話もつながらず、「状況がまったく分からない。余震も続いてこれからどうなるのか」と話した。

 南阿蘇村観光協会には16日午前9時ごろ、「河陽にある二つの旅館で宿泊客らが孤立している」との連絡があった。地獄温泉で約50人、垂玉温泉では17人がそれぞれ旅館の外に避難している。両旅館は東西にのびる道路沿いにあり、東西のいずれも道が通れない状況になっているという。旅館側が炊き出しをしながら、救助を待っている。

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