JAXA技術者、「萌え声」も ロケット中継のガイド

 ロケットの打ち上げは、精巧な技術だけでなく親しみのある中継ガイドも支えている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の技術者が担当し、受け継がれてきたのがインターネット動画での打ち上げライブ中継司会だ。世間の関心が集まる日に宇宙開発への興味をより高めるため、「ガイド役」は今も工夫を重ねてロケット同様高みを目指す。

 昨年12月3日。日本中がかたずをのんだ、小惑星探査機「はやぶさ2」を載せたH2Aロケット26号機の打ち上げ。

 「現在種子島の天候は曇りですが、時々晴れ間から光が届いている状況です。皆さんも、もっと晴れるようお祈りしてくださいね」

「癒やされる」書き込み相次ぐ

 JAXAのライブ中継動画で流れてきたのは、司会女性の高めでやわらかい声だった。「かわいらしい」「癒やされる」。ツイッターなどで司会に注目する書き込みが相次いだ。

 司会を務めたのはJAXA職員の嶋根愛理(えり)さん(32)。ロケットの電子機器の研究開発をしている技術者だ。種子島宇宙センター(鹿児島県)にあるスタジオでの中継が終わった途端、同僚などから「すごい話題になっているね」と声をかけられた。JAXAの中継動画に関する検索数が急上昇したことを受けて、その日のうちにテレビ局の取材もあったという。「いわゆる『萌(も)え声』だったのか、ネットでの反響には驚いた。コンプレックスだった高めの声が受け入れてもらえたのがうれしかった」と話す。

 実は、夜のニュース番組の女性キャスターのように低めの声で話そうと考えていた。しかし、中継動画に携わる制作会社の人から「かっこつけるより自然に話した方が、声がつぶれない」とアドバイスを受け、自分らしい声のままで話したという。

 打ち上げの中継動画は、数万人が自宅などで視聴するほか、全国の科学館などでパブリックビューイングが催されたり、ケーブルテレビなどで放送されたりする。ロケット技術の解説や開発担当者へのインタビューなどを交えた構成だ。

 その司会は、ロケット研究開発の現場を知るJAXAの技術者が主に務めてきた。昨年2月のH2A23号機では、ロケットの構造を研究する伊海田皓史(いかいだひろし)さん(32)が務めた。司会に指名されたときは「めったにないチャンスなのでありがたい」と感じたという。

 小学4年生のときに初の純国産大型ロケット「H2」の1号機の打ち上げ中継をテレビで見たのが、伊海田さんが宇宙に携わる仕事を志すきっかけだ。朝日に輝くロケットの機体の美しさが目に焼き付いたという。

 自分の体験と同じように子どもが中継を見ることを考え、わかりやすい表現を出来るだけ台本に盛り込むよう、広報担当者らと本番直前まで調整を重ねた。打ち上げ時刻が午前3時23分という未明だったが、「中継のために子どもと早めに寝て見ています」という視聴者メッセージが届いた。「非常に多くの方が中継を楽しみにしてくれている」と実感したという。

自分らしく「パカッと割れました」

 わかりやすい表現を心がけたのは、嶋根さんも同様だ。打ち上げが2度延期され、台本もその度に変更されたが、「自分の言葉でしゃべろう」と台本の余白に実際にしゃべる内容のメモを書き続けた。はやぶさ2を覆うカバーがきれいに切り離された映像を実況するときは「パカッと割れました」と、「自分の言葉」で説明した。

 今月24日に打ち上げが予定されるH2A29号機でも、JAXAでロケットの設計開発を進めている森茂さん(38)が司会を担う。国産ロケットとして初めて商業衛星を打ち上げる節目であり、カナダの通信衛星会社から打ち上げを受注した三菱重工の技術者と2人での共同司会となる。

 29号機は今までのH2Aに比べ、大幅な改良が加えられている。静止軌道に到達する前に人工衛星が消費する燃料を節約するため、ロケットがより長く飛行できるようにした。また、衛星を切り離す際にはロケットのエンジンを再々着火する技術も導入された。これらの解説を正確に、かつわかりやすく発信するのが森さんたちの役目だ。

 打ち上げから衛星分離まで成否が判明する時間は30分前後が多かったが、今回は長時間飛行のため、約4時間半かかる。2部構成になる中継が間延びしないよう、構成を練り上げているという。

 10月中旬に司会担当が決まったという森さん。「大役を任せられた。次の世代を担う子どもたちにもロケットの技術が理解してもらえるよう、丁寧に説明したい」と意気込んでいる…

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