(関西食百景)黒潮の幻 手塩にかけて

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文・中川透 写真・遠藤真梨
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和歌山の養殖クエ

 ぶあつい唇とノコギリのような歯。エサのカツオが放り込まれると、がま口のように開いてくわえ込む。見つめていると、吸い込まれそうだ。

 本州最南端、和歌山県串本町の港から船で約5分。木枠で組んだいけすが十数個並ぶ。クエの養殖場だ。中には1メートル近いものも泳いでいる。「この大きさになるまで、10年かかります」と地元、岩谷水産の岩谷昇さん(27)。

 「クエを食べたら、ほかの魚を食えぬ」といわれる高級魚。天然ものはわずかで、地元の人も口にできない「幻の魚」だ。

 そこで、養殖の出番になる。昇さんの父、裕平さん(57)が始めたのは30年以上前だ。「育つまで長く、リスクが大きい。大量死した年もあり、軌道に乗るまで10年かかった」

 2月半ば。体長0・8メートルほどで重さ7~8キロの2匹が水揚げされた。網ですくい、鋭くとがった「手かぎ」でこめかみを突く。船上で活(い)け締めして鮮度を保ち、京阪神や首都圏の料亭、ホテルに出荷している。

 「紀州梅くえ」と名付けたクエのネット通販もしている。梅エキスを混ぜたエサを、アジやカツオとともに与えている。

 「天然にひけをとらぬ味。一度食べるとわかってもらえる」と昇さん。広がる養殖に、救いを求める老舗温泉街も現れた。

クエば極楽 白浜の救世主

 「幻の魚がクエる」。こんなうたい文句で名物として打ち出したのが和歌山・白浜温泉だ。

 2007年に始まり、温泉街にクエ料理専門の「九絵亭(くえてい)」も開業した。料理長の麻野有(たもつ)さん(41)は、冬の多い日には20匹ほどをさばいている。

 うろこをはぐと、褐色の魚体…

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この記事を書いた人
中川透
経済部兼Sundayマネー面編集長
専門・関心分野
くらしとお金(資産運用、不動産、相続など)