(社説)適性評価制度 もっと具体的に説明を

社説

 「経済安全保障」の分野に「適性評価制度」を導入する法案が国会で審議中だ。成立すれば重要情報を扱う民間人の身辺を国が調べることになる。対象者の人権が守られ、不利益を被らない運用を徹底できるのか。秘密の範囲が不必要に拡大しないのか。さらに議論を詰めるべきだ。

 重要なインフラや物資の供給網に関して政府が持つ情報で、漏れれば安全保障に支障を与える恐れのあるものを保護の対象とし、適性評価の合格者だけに取り扱いを認める。漏洩(ろうえい)には、5年以下の拘禁刑などの罰則も設ける。

 適性評価では、犯罪歴や借金の状況、家族の国籍、飲酒の節度などを調べる。同様の制度は、防衛、外交、スパイ・テロ防止の分野で10年前にできた特定秘密保護法にもあるが、新法では、対象者が経済官庁や民間企業に広がる見込みだ。

 法案は、適性評価を「対象者の同意を得て実施する」とする。だが、適性評価を拒否しても、会社内で配置転換などの不利な扱いを受けることがないと確約されなければ、事実上の強制になる恐れがある。管理職や役員をどこまで適性評価の対象にするのかもあいまいで、企業統治にも影響しかねない。

 政府は、法案成立後につくる運用基準の中で弊害防止策を検討するというが、国会審議の中で具体的に説明しなければ、疑念を払えない。

 対象にする情報についても、サイバー攻撃対策関連などを例示するだけで、これも運用基準で「一層の明確化を行っていく」(岸田首相)という。恣意(しい)的な運用への懸念を抱かざるを得ない。すべてを事細かに法案に書き込めないとしても、運用基準への委任は抑制的にすべきだ。

 法案は、適性評価で得た情報の目的外利用を禁じている。だがプライバシーに関わる大事な個人情報が国に集まるだけに、確実に保護される仕組みにできるのか、さらに詳しい説明が必要だ。

 衆院通過時には、運用状況を毎年国会に報告するなどの修正が加えられた。特定秘密保護法の運用を監視する国会の情報監視審査会も活用する見通しだ。必要な修正だが、特定秘密保護法と同水準の仕組みに過ぎない。広く民間人が対象になる以上、一段の監視強化も検討すべきだ。

 政府は、経済安保関連で特に機密度が高い情報は、特定秘密保護法の対象になるとし、新法と「継ぎ目なく運用する」との方針を示している。それが特定秘密保護法の拡大解釈につながらないか、十分に確認する必要がある…

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