編集委員・大鹿靖明
拡大する新千歳空港のそばに建設が進むラピダスの工場
経済産業省の平井裕秀は2020年7月、商務情報政策局長に昇進した。半導体やコンピューターなどハイテク産業を所管する同省の枢要ポストである。着任してまもなく、入省年次で九つ上の先輩が就任祝いのあいさつにやってきた。
先輩は平工奉文(ひらくともふみ)。製造産業局長を最後に退官し、このときは日本IBMの特別顧問を務めていた。世間話のあと、平工が唐突に切り出した。
「IBMが開発した最先端の半導体技術について関心はありますか」
IBMは、米ニューヨーク州オールバニの研究拠点で、回路の線幅を2ナノに微細化した半導体を開発中だった。半導体は線幅が小さいほど性能が向上する。IBMは翌年、当時最先端の7ナノと比べて、2ナノは45%も処理能力が高まり、75%も電力消費量が減る、と広報するようになる。2ナノはAI時代のキーデバイスになりそうだった。
平井は「もちろん関心あります」と身を乗り出した。この日が、後に「ラピダス」となるプロジェクトが始まるきっかけとなった。極秘交渉がスタートした。
日本IBMの平工は数週間後、…