2023年10月7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに対する大規模攻撃を始めた。イスラエル側で約1200人が死亡、200人以上が人質になった。
イスラエル軍は同日から、報復としてガザ地区への空爆を開始した。
イスラエルによって封鎖されているガザは、人やモノの出入りが厳重に制限されている。朝日新聞は、ガザの住民であるムハンマド・マンスール通信員に取材協力を依頼して、エルサレム支局の高久潤記者とともにガザの様子を伝えてきた。
戦闘が始まり、マンスール通信員は何を思ってきたのか。高久記者とのやりとりから振り返る。
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マンスール通信員
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高久潤記者
突然の通信遮断
空爆に加えて、地上侵攻の構えを見せるイスラエル軍。ガザの避難民は100万人、死者数は5千人を超えた。
10月27日、マンスール通信員の住む南部ラファなど、ガザのほぼ全域でインターネットや電話が遮断された。
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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から2023年10月29日までに損壊したとみられる建物


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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から2023年10月29日までに損壊したとみられる建物

世界から孤立を強いられているようで、とても恐ろしい。
少しでも気持ちを落ちつけたくて、家族と体を寄せ合った。
同居する母は周囲の様子にとても敏感になり、取り乱した様子だ。ここも空爆されるのではないか、離れて暮らす知人は無事なのか……。
またも質問攻めにあい、私はすべての情報を持っているわけではない、と言い聞かせた。
ただ、母の気持ちは理解できる。何かを知っているふりをして、「だから、大丈夫」となだめたりもした。
久しぶりの笑顔
イスラエルとハマスは人質の解放を条件に、11月24日午前7時から戦闘を一時休止することに合意した。
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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から11月18日までに損壊したとみられる建物


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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から11月18日までに損壊したとみられる建物

「もう大丈夫ではないか」との声が、ガザの人たちの間で広がった。
避難先の施設や家から、子どもたちが次々と外に飛び出した。
細々と営業する売店へ甘いジュースを買いに行く子、久しぶりにボール遊びをしようと声を掛け合う子、家族と一緒に、あとにしてきた自宅の様子を見に行く子――。その表情に、曇りはうかがえない。
やがて戦闘が再開されることも、その先に待っている苦しみのことも、子どもたちは想像していないからだろう。
戦闘再開
イスラエル軍とハマスは戦闘の一時休止の延長に合意できなかった。12月1日から戦闘が再開した。
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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から12月16日までに損壊したとみられる建物


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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から12月16日までに損壊したとみられる建物

世界では、日々のニュースで、ガザの人々が殺され、街が跡形もなく焼き尽くされていく様子が、伝えられているはずだ。
それでも、助けが訪れる気配を私は感じられない。
私は一人の人間として思う。私たちはどうして、こんな目にあわなければならないのか、と。
ハマスが支配している地域に生まれたことが、罪なのか。
考えても答えは見つからない。
故郷を去る決意
5月7日、マンスール通信員の住むラファでイスラエル軍の地上部隊が限定的な作戦を始めた。
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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から2024年5月20日までに損壊したとみられる建物


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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から2024年5月20日までに損壊したとみられる建物

いくら私たちが国際社会の動きを待っても、イスラエル軍は止まらない。イスラエルは私たちを殺すつもりなのだ。
5月17日、私たち家族はついに故郷のラファを離れた。
私たちは隣接するハンユニスの海岸にたどり着いた。どうにか逃げてはきたものの、家族全員が休めるテントや寝袋、基本的な生活必需品を手に入れると、飲み物や食べ物を買うお金はほとんど残らなかった。
これからどうなるのだろうか。家族を守りきれるのだろうか。こうした状況を記者として伝え続けても、この戦争が終わる気配が見えないのはなぜなのか。
この苦しみには出口がないと感じる。
この言葉だけでもいいから私たちの声を聞いてくれないだろうか。
狙われた避難民キャンプ
避難先のハンユニスでも、激しい空爆は続いた。
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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から7月27日までに損壊したとみられる建物


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被害を受けたとみられる地点
- 開戦から7月27日までに損壊したとみられる建物

イスラエル軍は、標的であるハマスの軍事部門トップの殺害を優先するため、避難民が集まっているキャンプを狙ったと認めているのだそうだ。そしてこの場所にイスラエル側の人質がいないことを確認した上での攻撃だったという。
だが、そこにパレスチナの人々はいたのだ。私は崩れたがれきから見える体の一部や、子どもを失って頭を抱える父親の姿を見た。
イスラエルメディアや欧米メディアの関心は、標的の生死のようだ。でも、その男の名前を、ここで逃げ惑った人、けがをした人たちが話題にすることはない。現場でその男の名前は聞かなかった。
聞こえてきた言葉を伝えたいと思う。
「イスラエルはどこまで私たちを追い詰めるのか」
「誰か、私たちを救ってください」
ガザでの戦闘の終わりは見えない。
イスラエルは隣国レバノンとの戦闘を激化させるなど、中東で紛争の危機はさらに高まっている。
マンスール通信員へのメッセージを、高久記者への「おたより」を使ってお寄せください。(朝日新聞デジタルのアプリのダウンロードが必要です)
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ガザ 死者数41,870人負傷者数 97,166人10月6日現在。ガザ保健省から
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イスラエル 死者数1,200人以上負傷者数 最大5,400人10月6日現在。国連人道問題調整事務所(OCHA)から
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子どもの死者11,355人- 栄養不足の女性と子ども(6~23カ月)
- 96%以上
- 急性栄養失調で要治療の子ども
- 50,000人以上
- メンタル面で支援が必要な子ども
- 100万人以上
- 家族などが不在の子ども
- 最大17,000人
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危機的あるいは
それ以上の食料不安人口の96%ガザ地区の人口は210万人- 壊滅的なレベルの食料不安
- 50万人
- 農耕地の被害
- 68%
- 漁船の破壊
- 最大70%
- 本来の目的以外で死亡した家畜
- 60~70%
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- 域内総生産(GDP)
- -81%
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- 稼働していない病院
- 19/36カ所
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- 部分的にしか稼働していないイスラエルからの給水施設
- 3/3カ所
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- 正規の教育を
受けられていない生徒 - 最大625,000人
- 学校の被害
- 87%
- 正規の教育を
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- 住宅の被害
- 60%以上
- 商業建物の被害
- 80%以上
- 道路網の被害
- 68%
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- 多量のがれき
- 4,200万t 以上
- ダンプカーに積むと車列は米NYからシンガポールまでの長さになる
- がれきの撤去費用
- 1000億円