ガザ戦闘から1年 現地通信員が見た戦場:朝日新聞デジタル
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Gaza 365 days 現地通信員が見た戦場

スクロール

2023年10月7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに対する大規模攻撃を始めた。イスラエル側で約1200人が死亡、200人以上が人質になった。​

イスラエル軍は同日から、報復としてガザ地区への空爆を開始した。​

イスラエルによって封鎖されているガザは、人やモノの出入りが厳重に制限されている。朝日新聞は、ガザの住民であるムハンマド・マンスール通信員に取材協力を依頼して、エルサレム支局の高久潤記者とともにガザの様子を伝えてきた。

​戦闘が始まり、マンスール通信員は何を思ってきたのか。高久記者とのやりとりから振り返る。

  • マンスール通信員

  • 高久潤記者

パレスチナ自治区ガザで朝日新聞の通信員を務めてきたジャーナリストのムハンマド・マンスールさん(29)が2025年3月24日、ガザでイスラエル軍の攻撃を受けて死亡しました。
1

突然の通信遮断

空爆に加えて、地上侵攻の構えを見せるイスラエル軍。ガザの避難民は100万人、死者数は5千人を超えた。

10月27日、マンスール通信員の住む南部ラファなど、ガザのほぼ全域でインターネットや電話が遮断された。

  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から2023年10月29日までに損壊したとみられる建物
  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から2023年10月29日までに損壊したとみられる建物
2023/10/27 12:00 PM

通信が遮断されているようだ。このメッセージが届くかわからないけども、もし読んだら教えてください。

はい。届きました。こちらはとても恐ろしい状況です。爆撃の音が大きすぎて怖い。

今どこにいますか?

家です。誰も外になんて出られません。通りには人はいないし、とても恐ろしい状況です。移動するのがとても大変な状況です。

ただ、きょうの昼間に私はラファにあるシェルターに取材に行きました。みなおびえていました。

この通信遮断がどうなるかわかりますか?

みな気にしています。

私もまったくわかりません。一つ提案なのですが、通信遮断されている状態の日常を日記として書き残してほしいです。何が起きたか。何を見たのか。時間と場所も記録してください。

日記? わかりました。

「世界から孤立を強いられているようだ」
マンスール通信員の記事から

世界から孤立を強いられているようで、とても恐ろしい。​

少しでも気持ちを落ちつけたくて、家族と体を寄せ合った。

同居する母は周囲の様子にとても敏感になり、取り乱した様子だ。ここも空爆されるのではないか、離れて暮らす知人は無事なのか……。

またも質問攻めにあい、私はすべての情報を持っているわけではない、と言い聞かせた。

ただ、母の気持ちは理解できる。何かを知っているふりをして、「だから、大丈夫」となだめたりもした。

2

久しぶりの笑顔

イスラエルとハマスは人質の解放を条件に、11月24日午前7時から戦闘を一時休止することに合意した。

  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から11月18日までに損壊したとみられる建物
  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から11月18日までに損壊したとみられる建物
2023/11/24 7:22 AM

そちらの状況はどうなっていますか?

そちらの状況を取材できますか。

2023/11/24 2:16 PM

みんな外に出て街のなかには人があふれていました。特に市場にはたくさんのひとがいました。

爆撃の音がしないというのはすばらしい。

写真もたくさん撮りました。

こんなに笑顔をみたのは久しぶりです。

これから記事を書きます。

曇りのない表情の「その先」
マンスール通信員の記事から

「もう大丈夫ではないか」との声が、ガザの人たちの間で広がった。

避難先の施設や家から、子どもたちが次々と外に飛び出した。

細々と営業する売店へ甘いジュースを買いに行く子、久しぶりにボール遊びをしようと声を掛け合う子、家族と一緒に、あとにしてきた自宅の様子を見に行く子――。その表情に、曇りはうかがえない。

やがて戦闘が再開されることも、その先に待っている苦しみのことも、子どもたちは想像していないからだろう。

2023/11/28 7:40 AM

戦闘停止が続くのはいいですが、私たちはこれからどうなるだろう。

ガザの人たちはどんなことを話していますか。

最初のころはみんな笑っていましたが、最近は生活の苦しさの話が増えました。

私たちはもう50日以上電気がありません。私たちは太陽光パネルでこうした問題に対応してきたが、すでに限界です。

戦闘が止まったら止まったで不安がつきないです。

ものすごいストレスです。

こちらで何かあなたのためにできることはないですか?

ありがとう。日本の人はみんなやさしい。

もし、私たちの記事についての感想を聞いたら、私に教えてほしい。

3

戦闘再開

イスラエル軍とハマスは戦闘の一時休止の延長に合意できなかった。12月1日から戦闘が再開した。

  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から12月16日までに損壊したとみられる建物
  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から12月16日までに損壊したとみられる建物
2023/12/1 7:01 AM

残念ながら戦争が戻ってきてしまった。いま、戦闘機が恐ろしい音をたてて、飛び始めた。爆撃の音が遠くから聞こえる。

本当に残念です。今話せますか?

ちょっと待ってください。家族がおびえているから。

もちろんです。まずは家族とあなたの安全を優先してほしい。

状況が少し落ち着いたら連絡ください。

2023/12/1 10:26 AM

爆撃がひどすぎる。特にここラファとハンユニスはひどい。異常だ。

イスラエルはよっぽどガザが憎いのだと思う。

私の無事を祈ってくれ。

私の心はいつもあなたと一緒にいる。

「ガザに生まれたことが罪なのか」
マンスール通信員の記事から

世界では、日々のニュースで、ガザの人々が殺され、街が跡形もなく焼き尽くされていく様子が、伝えられているはずだ。 

それでも、助けが訪れる気配を私は感じられない。

私は一人の人間として思う。私たちはどうして、こんな目にあわなければならないのか、と。

ハマスが支配している地域に生まれたことが、罪なのか。

考えても答えは見つからない。

2024/4/2 2:32 AM

(イスラエル首相の)ネタニヤフは政治生命のために地域全体に戦争を拡大させるということがありうるのだろうか。そんなバカなことをする人がいるのだろうか。

ラファの人たちも、あなたのように感じている?

ラファではそんな話をする余裕は今はない。私たちはひたすら追い詰められている。

最近変わったのは、「このままゆっくり殺されていくなら、イスラエル軍の部隊が早く来て殺してくれないかな」という話がよくでるようになったことだ。

ちょっと前は笑い話だったが、もう誰も笑わない。ガザで誰も笑わないなんてこれまで起きたことないんだ。

4

故郷を去る決意

5月7日、マンスール通信員の住むラファでイスラエル軍の地上部隊が限定的な作戦を始めた。

  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から2024年5月20日までに損壊したとみられる建物
  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から2024年5月20日までに損壊したとみられる建物
2024/5/9 4:51 AM

もう疲れた。もう疲れた。耐えられない。

あなたにかけるべき言葉が見つからない。

すいません。こうやって話して怒りを発散させているだけです。

私は家族にこんなことは言えない。みんな疲れているときに、私が疲れているというわけにはいきません。これはあなたにだけしか言ってない。

あなたはイスラエル軍がこの後ラファをどうしようとしているのか何か知らないですか。

どうしてこんな目にあわないといけないのだろう。

なぜアメリカはイスラエルを止めないのか。世界はなぜこんなに私たちのことを憎んでいるんだろうか。

ああ、ごめんなさい。言い過ぎですね。

2024/5/11 11:59 PM

もうやはりラファを離れないといけないようだ。

「イスラエル軍がこの場所から避難するようにビラを配っている」と妻が言ってきた。

私もイスラエル軍はこのまま攻撃を続けると思うし、やめることはないと考えています。

正直言うけど、私もあなたが言うとおり、イスラエル軍によってこの街は破壊しつくされるんだと思う。

ガザ市だってそうだし、他の地域がそうなったのだからラファだけが免れるわけがない。それはずっとわかっていた。でもどこかでもしかしたら、と思っていた。

アメリカでも、国際社会でも、なんでもいい。たまたまでもいい。

私たちが自分たちの街を離れなくていい未来があるかもしれない。

その可能性はないと思う。

私はあなたの気持ちがわかるとはいえない。街が破壊されたこともない。避難したこともないから。

それは本当にラッキーなことだよ。こんな気持ちわかる必要ない。

私にとって日本はいつもあこがれの国なんだ。いつか行きたいよ。

「イスラエルは私たちを殺すつもりなのだ」
マンスール通信員の記事から

いくら私たちが国際社会の動きを待っても、イスラエル軍は止まらない。イスラエルは私たちを殺すつもりなのだ。

5月17日、私たち家族はついに故郷のラファを離れた。

私たちは隣接するハンユニスの海岸にたどり着いた。どうにか逃げてはきたものの、家族全員が休めるテントや寝袋、基本的な生活必需品を手に入れると、飲み物や食べ物を買うお金はほとんど残らなかった。

これからどうなるのだろうか。家族を守りきれるのだろうか。こうした状況を記者として伝え続けても、この戦争が終わる気配が見えないのはなぜなのか。

この苦しみには出口がないと感じる。

この言葉だけでもいいから私たちの声を聞いてくれないだろうか。

5

狙われた避難民キャンプ

避難先のハンユニスでも、激しい空爆は続いた。

  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から7月27日までに損壊したとみられる建物
  • 被害を受けたとみられる地点
  • 開戦から7月27日までに損壊したとみられる建物
2024/7/13 9:18 AM

ハンユニスでどうもひどい虐殺がまたあったようだ。

現場に見に行ってこようとおもうのだけど、いいだろうか?

まだ攻撃は続いてますか?

行くとしても終わってからにしてほしい。もう少し現場の状況はわかりませんか?

すさまじい音でした。

(避難している人たちが住んでいる)テントが燃えているらしい。

今はもう音は聞こえない。ほかの記者たちと一緒に行こうと思う。

「誰か、私たちを救ってください」
マンスール通信員の記事から

イスラエル軍は、標的であるハマスの軍事部門トップの殺害を優先するため、避難民が集まっているキャンプを狙ったと認めているのだそうだ。そしてこの場所にイスラエル側の人質がいないことを確認した上での攻撃だったという。

だが、そこにパレスチナの人々はいたのだ。私は崩れたがれきから見える体の一部や、子どもを失って頭を抱える父親の姿を見た。

イスラエルメディアや欧米メディアの関心は、標的の生死のようだ。でも、その男の名前を、ここで逃げ惑った人、けがをした人たちが話題にすることはない。現場でその男の名前は聞かなかった。

聞こえてきた言葉を伝えたいと思う。

「イスラエルはどこまで私たちを追い詰めるのか」
「誰か、私たちを救ってください」

2024/09/10 5:27 PM

取材で子どもと話していた。

私たちが、1年近くもとんでもない生活を送っているかが世界に伝わるかなあって話題になった。

記事を書くとかじゃなくて?

これまでいろんな話や残酷な様子を写した写真をとって日本に伝えてきたけど、だめだなって。

その子どものアイデアは何だった?

服や靴じゃないか?って。

どういう意味?

これだよこれ。

汚い写真を送ってすまない。でもこれがガザなんだ。 1年近く生活しているといつのまにか持っているもののほとんどがこんなふうになる。

これを写真として新聞に載せるとかどうだろうか。

でも朝刊だと、朝ご飯食べながら読む人もいるのだろうか。

そうだね。

ガザが嫌われてしまうか。ははは。

ガザでの戦闘の終わりは見えない。

イスラエルは隣国レバノンとの戦闘を激化させるなど、中東で紛争の危機はさらに高まっている。

2024/09/29 8:36 PM

戦闘が始まって1年が経ちます。日本の読者にどんなことを考えてほしい?

私は、日本の人たちは、平和と人権を本当に大事にしている人たちだと聞いています。

だからガザの人たちに、私が日本の新聞に記事や写真を書いていると話すと、尊敬されます。

だからこそ、私は日本の人たちが、ガザのことを気にしてくれることを信じているし、みなさんがいることが私が生きていることの動機にもなっています。

平和と人権という日本が誇る価値が破壊されている地域が海の向こうにあることを、時に思い出して欲しい。

私たちはとても孤独を感じています。

でも読者のひとがいることは私たちが生きていく糧になります。

マンスール通信員へのメッセージを、高久記者への「おたより」を使ってお寄せください。(朝日新聞デジタルのアプリのダウンロードが必要です)

  • ガザ 死者数
    41,870
    負傷者数 97,166人
    10月6日現在。ガザ保健省から
  • イスラエル 死者数
    1,200人以上
    負傷者数 最大5,400人
    10月6日現在。国連人道問題調整事務所(OCHA)から
  •  
    子どもの死者
    11,355
    栄養不足の女性と子ども(6~23カ月)
    96%以上
    急性栄養失調で要治療の子ども
    50,000人以上
    メンタル面で支援が必要な子ども
    100万人以上
    家族などが不在の子ども
    最大17,000人
  • 危機的あるいは
    それ以上の食料不安
    人口の96%
    ガザ地区の人口は210万人
    壊滅的なレベルの食料不安
    50万人
    農耕地の被害
    68%
    漁船の破壊
    最大70%
    本来の目的以外で死亡した家畜
    60~70%
  • 域内総生産(GDP)
    -81%
  • 稼働していない病院
    19/36カ所
  • 部分的にしか稼働していないイスラエルからの給水施設
    3/3カ所
  • 正規の教育を
    受けられていない生徒
    最大625,000人
    学校の被害
    87%
  • 住宅の被害
    60%以上
    商業建物の被害
    80%以上
    道路網の被害
    68%
  • 多量のがれき
    4,200万t 以上
    ダンプカーに積むと車列は米NYからシンガポールまでの長さになる
    がれきの撤去費用
    1000億円
OCHAなどから
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