感染症じゃないのに急増 ペルーのギラン・バレー症候群

内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司
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 南米のペルーで「ギラン・バレー症候群」という病気が増えているという報道がありました。

 あまりなじみのない病気かもしれません。急増していることから感染症のようにも思われますが、ギラン・バレー症候群自体は感染症ではなく、人にはうつりません。しかし、感染症と強い関連があり、おそらくペルーでの急増もそのためです。

 まずは、ギラン・バレー症候群がどのような病気かを説明しましょう。発症率は1年間で10万人あたり約1人と比較的まれな病気で、手足の脱力や感覚障害を起こし、重症化すると呼吸や眼球運動、嚥下(えんげ)にも障害が起きる神経疾患です。自律神経に障害が生じて不整脈や低血圧を伴うこともあります。通常は意識障害は起きません。呼吸筋に障害が起きると人工呼吸が必要になります。数日から数週間かけて症状が進行した後に多くは徐々に回復しますが、後遺症が残る人もいます。致死率は数%です。

 原因は自己免疫、つまり、免疫系が自分の神経組織を誤って攻撃することで起こると考えられています。そのきっかけになるのが感染症です。ギラン・バレー症候群の約70%に先行感染があると言われています。有名なのがカンピロバクターです。十分に加熱していない鶏肉などから感染し下痢や腹痛といった食中毒症状を起こし通常はそのまま自然に治ってしまいますが、まれに数週間後にギラン・バレー症候群を起こします。

 カンピロバクター以外にも、マイコプラズマ、EBウイルス、サイトメガロウイルス、E型肝炎ウイルスなどの多くの病原体の感染がギラン・バレー症候群に先行します。ペルーでは、ジカウイルス(ジカ熱)やエンテロウイルスの関与が疑われています。感染症が流行した後にギラン・バレー症候群が増えることがあります。ペルーだけでなく、これまでも中国やブラジルなどでギラン・バレー症候群のアウトブレークが報告されています。

 対策は、まず、発症のきっかけとなる病原体に感染しないこと。ジカ熱は蚊が媒介します。流行地に旅行するときには長袖、長ズボンを着用し、虫よけ剤を使用しましょう。ギラン・バレー症候群への対策というだけでなく、蚊が媒介する感染症を予防するにこしたことはありません。手洗いや食品の十分な加熱などの食中毒対策も有用でしょう。

 風邪や下痢の数週間以内に、手足に力が入らない・しびれるといった症状が出てきたら、ギラン・バレー症候群の初期症状かもしれません。脳出血脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害と違って左右ともに症状がでてくることがほとんどです。また、病初期は数日ぐらいの経過でだんだん症状が悪化します。ギラン・バレー症候群を疑う症状が生じたときは早めに医療機関に受診してください。

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<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(酒井健司)

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。