国の原発回帰の中、上関原発めぐる埋立免許延長を山口県が三たび許可

前田健汰 武井宏之 川本裕司
[PR]

 上関原発山口県上関町)の建設計画をめぐり、県は28日、中国電力広島市)が申請していた公有水面埋め立て免許の延長について、3度目の許可を出した。岸田文雄首相が「原発回帰」の姿勢を強める一方、上関原発の建設に向けた国の審査はストップしたまま。県は中電に対し、前回、前々回の延長許可の時と同様、原発本体の着工時期が見通せるまで埋め立てに着手しないよう求めた。

 公有水面埋め立て免許の延長許可書は28日午前、平屋隆之副知事が県庁を訪ねた中国電力の芦谷茂副社長に手渡した。平屋副知事は続いて、原発本体の着工時期の見通しがつくまで埋め立て工事を行わないよう求める要請書も手渡し、「知事の思いでもあるので、要請の趣旨を重く受け止めて欲しい」と語りかけた。

 県は延長許可を判断する要件として、3年6カ月の期限内に埋め立て工事が終わらない「合理的な理由」と、引き続き土地需要があるかの2点を検討。「複数の船舶を停泊させる行為」によって、海上ボーリング調査が終了できなかったと認めた。中電は原発に反対する住民団体による「妨害」と主張している。

 また、土地需要については、国による2005年の重要電源開発地点の指定が引き続き有効との回答を、中電が国から得たことを根拠とした。

 同日午後、村岡嗣政知事は報道陣の取材に、免許の延長について「県はあくまで法律にのっとり審査し、(要件を)満たしていれば許可しなくてはならない」と述べた。原発に反対する住民への対応については「中電の方で理解を得る活動が必要だ」と述べた。

 上関原発は海を埋め立てて原子炉2基を建設する計画。中電が県から埋め立て免許を受けて09年に準備工事を開始したが、11年の福島の原発事故以降は工事を中断している。

 県は埋め立て免許について、16年に3年、19年には埋め立て前に必要な海上ボーリング調査にかかる半年を加えた3年6カ月の延長を許可。今回はさらに関連訴訟の一審判決までにかかると見込まれる期間11カ月を加え、4年5カ月の延長を許可した。(前田健汰)

     ◇

 「当社にとっても、脱炭素という意味でも、非常に重要だ。今後も開発を進めていきたい」

 埋め立て免許の延長が決まり、中国電力の芦谷茂副社長は記者団の取材に、上関原発の建設への意欲を改めて示した。

 根強い原発反対の声もある地元に対しては「これまでも丁寧に説明させていただいている」と強調。反対派の住民団体を相手取り、海上ボーリング調査を妨害しないよう求めた民事訴訟で「我々の思いをしっかり主張していきたい」と語った。

 一方、中電が原発本体の着工時期を未定とするなか、県が着工時期の見通しがつくまで埋め立て工事に着手しないよう要請したことに対しては「重く受け止め、これまで通り慎重に対応していきたい」とした。

 11年前の福島での原発事故後、政府は原発の新増設をめぐり「想定していない」と繰り返してきたが、岸田文雄首相は8月、「次世代革新炉の開発・建設」などについて年内に具体的な結論を出せるよう検討を求め、「原発回帰」の姿勢を鮮明にしている。

 こうした動きを受けて芦谷副社長は、「改良型沸騰水型」を建設する従来計画を「現時点で変更することは考えていない」としつつ、「国の政策動向や技術開発のスケジュール感を見ながら、より安全な設備となるように開発を進めたい」と述べ、将来的な計画変更に含みを持たせた。武井宏之

     ◇

 一方、県に延長許可をしないよう求めていた住民団体などは反発を強めた。

 「原発に反対する上関町民の会」の山根善夫共同代表は「我々には3年前と同じ『許可ありき』の姿勢と映っていた」と批判。「県が延長を認めようとも、原発計画の白紙撤回を求める私たちの立場は一切変わらない」と強調した。

 原発建設に反対する県内5団体は15日、延長の不許可のほか、海上ボーリング調査は埋め立て工事と無関係だとして今回の審査対象から外すことや、生息する希少生物保護のために着工を認めないよう求めていた。

 これに対し、原発推進団体「上関町まちづくり連絡協議会」事務局長の古泉直紀町議は「県の認可は建設に向け一歩前進。国としてもエネルギー基本計画で原発の新増設について議論を進めていってほしい」と歓迎した。

 西哲夫上関町長は「県として法にのっとり公平公正に判断したもの」としたうえで、「原発についての国策が今までのように中ぶらりんでは、建設計画のある地元としてはもう待てない」と国が方針を早く打ち出すよう求めた。(川本裕司)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら