フィギュアスケート男子で五輪2連覇を果たし、7月にプロ転向を表明した羽生結弦さん(27)による単独アイスショー「プロローグ」が4日、横浜・ぴあアリーナMMで幕を開けた。

 プロスケーターとして臨む初めてのアイスショーで、タイトルの意味は「序章」。ステージ構成を含め、羽生さん自身が総合プロデュースを手がけ、この日は平昌五輪で金メダルを獲得した時のフリー「SEIMEI」などに合わせて演技を披露した。

 公演後、羽生さんは「これから始まる物語のプロローグ。今まで経験したことや、皆さんに力をもらったことを共有しながら、次のステップにつなげていきたい」と話した。横浜公演は5日まで。12月2、3、5日には青森・フラット八戸でも公演がある。

 初日を終えた羽生さんと報道陣との主なやりとりは次の通り。

 ――どういう思いでプログラムをつくったんでしょうか。

 「7月にプロ転向の会見をさせて頂いてから、会場を含め、すべての企画がスタートしました。かなり時間が無い中で、大勢のスタッフの方に頼みながら、自分の要望に応えて頂きながら、つくっていきました。まずは、それだけで感謝の気持ちでいっぱいです」

 「この『プロローグ』というショーに関しては、これから始まる物語に向けてのプロローグであり、なんかすごく抽象的な話になってしまうかもしれませんが、自分がこれからまた新たに決意を胸にして、目標に向かって、夢に向かって一歩ずつ進んでいくんだということを、自分が経験してきたことだったりとか、また皆さんに力をもらってきた事柄だったりとか、そういったものをまた改めて皆さんと共有しながら、次のステップにつながるようにという思いを込めて、このショーを企画、構成しました」

 ――6分間練習もご自身の発想ですか?

 「正直、演技の配置だったりとか、順番だったりとかも含めて、『どこに何を入れようか』って考えた時に、自分としては記者会見があって、ちょっと過去に戻って平昌オリンピックがあって、それからまた改めて自分の人生を振り返って北京のエキシビになり、今現在に至るみたいなことをしたかったので、最初の方に平昌オリンピックの、僕の代表曲でもある『SEIMEI』を滑らせて頂きました。6分間練習と、アイスショーでは考えられない全部の照明をたいた状態でやるっていうことも含めて自分で考えたんですけど、正直どういう反応をして頂けるか」

 「また、僕自身も6分間練習を試合の場ではない中でやるということで、どれくらいちゃんと集中できるかも不安で仕方なかったんです。まだ皆さんの声を聞いているわけではないですが、ただ最後までまず一日目をやり抜いた感想としては、皆さんから本当に充実した表情だったりとか、反応を頂けていたと思うので、ある意味成功したんじゃないかなと思ってはいます」

 ――「いつか終わる夢」というプログラムがありました。

 「ひと言で表すのはちょっと難しくて、アレなんですけど。まず、振り付けをこの曲につけたいなと一番最初に思ったのが、何となく自分が滑りながらこの曲を流していた時に……、皆さんに好かれていたクールダウンの動きをやった時に、ピタってはまったんですね。このプログラムっていうか、この曲に」

 「その時に『皆さん、そういえばクールダウンすごく見たいなって言ってくださっていたな』って。『あれだけで十分満たされる』っていう声を頂いていたなってことがあったので、じゃあプログラムにしようとまず思いつきました」

 「それから、『いつか終わる夢』というタイトルも含めていろいろ曲を感じながら、また原作である『ファイナルファンタジーⅩ』、僕めちゃくちゃ好きで、世代なんでアレなんですけど、いろんなことを考えながらつくっていく時に、僕自身の『夢』って元々はオリンピック2連覇というものが夢でした。そして、その後に4回転半という夢をまた改めて設定して、追い求めてきました」

 「ある意味ではアマチュア競技というレベルでは、僕は達成することはできなかったし、ある意味ではISU(国際スケート連盟)公認の初めての4回転半の成功者にはなれませんでした。そういう意味では終わってしまった夢かもしれません」

 「そういう意味で、いつか終わる夢。『皆さんに期待して頂いているのにできない』『だけどやりたいと願う』『だけどもう疲れてやりたくない』みたいな」

 「皆さんに応援して頂ければ、応援して頂けるほど、なんか自分の気持ちがおろそかになっていって、壊れていって、何も聞きたくなくなって。でもやっぱり皆さんの期待に応えたい、みたいな。自分の心の中のジレンマみたいなものを表現したつもりです」

 「『いつか終わる夢』と最後の『春よ、来い』に関しては演出をMIKIKO先生にお願いしました」

 「初めてここまで本格的なプロジェクションマッピングも含めて演出としてやって頂いたので、また皆さんの中でフィギュアスケートのプログラムを見る目が変わったと思うし、実際に会場で見る、近場の自分と同じ目線で見るスケートと、上から見るスケートと、カメラを通して見るスケートって、全く違った見え方がすると思うので、ぜひぜひそういうところも楽しんで頂きたいなというプログラムです」

 ――現役中との違いは?

 「まあでも、『SEIMEI』に関しては平昌オリンピックを思い出しながらやらせて頂きました。構成としては実際4分7秒くらいになっていて、ジャンプの本数は少なくなっていますけど、あえてプロになったからこそできる、本来だったらキックアウトかもしれないけど、プロだからこそできるトリプルアクセル3発みたいなものをやってみました」

 「ものすごく緊張しましたし、試合だったら目の前にジャッジの方がいるんですけど、大勢のお客さま方が目の前の目線にいるっていうのは正直すごく自分の中でも試されているなって思います。自分自身も試さなくてはいけないなと感じながら滑っていました。良い緊張感でできたと思います」

 ――準備で大変だったことは何ですか?

 「まず、体力強化は本当に大変でした。ここに来るまでにシミュレーション、頭から最後まで通すことを5回ほどやってきたんです。けど、まあやっぱり、普通は僕、一つのプログラムに全力を尽くし切ってしまうので、その後にまた滑るということは考えられなかった。でも、何とかここまで体力をつけることができたなあと自分では思ってはいます」

 「あとはやっぱり自分が表現したい世界だったりとか、自分の演技と演技の間のVTRとか、そういったものにストーリー性、物語をよりみなさんに伝えやすくする作業だったりとか。あとは自分の意図するものがちゃんと伝わるようにってことを考えながら編集をしたり、実際つくってくださる方を頼ったり、そういった作業もすごく大変でした」

 「本当に今日の朝までかかって出来上がったものなので、もちろんまだまだやりたいこともありますし、もちろん『もっとこうできたかな』ということもあるんですけど、本当に自分一人ではできなかったです。何より、自分の意思をここまで尊重して頂きながら、こうやって大勢の皆さんが心を一つにして動いてくださるってことは、普通のアーティストとしてでも無いと思うので、これまでのいわゆるアマチュア時代をしっかり誠心誠意を持って頑張ってきて良かったなということをまた改めて、これからこういうみなさま方と一緒に頑張っていきたいなという気持ちになりました」

 ――これから始まる物語はどんな物語にしたいですか?

 「正直、たぶんプロ転向の記者会見でも言ったかもしれないですけど、プロだからこその目標みたいなものって具体的に見えていないんですよ。こういうことってある意味、僕の人生史上初めてのことなんです」

 「今までは、僕が4歳の頃から常に『オリンピックで金メダルを取る』という目標がある上で生活してきたので、ちょっと今、中ぶらりんな感じではあります」

 「ただ、こうやってまずはこのプロローグを毎日毎日成功させるために努力してきたこととか、また今日は今日で一つ一つのジャンプだったり、演技だったり、そういうものに集中していったり。そういうことが積み重なって、新たな『羽生結弦』という選手につながっていったり。また、それが積み重なっていくことで新たな自分の基盤ができていったりすると思うので、今できることを目いっぱいやって、フィギュアスケートっていうものの限界を超えていけるようにしたいなっていう気持ちでいます」

 「それが、これからの僕の物語としてあったらいいなって思います」

 ――ファイナルファンタジーから得たインスピレーションはどういうものなんでしょうか。

 「原作だとすごく魂とともに舞っていたり、歌っていたり、感情を表現していたり、本当に幻想的な風景の中で水中にいたりっていうシーンなんですけど。MIKIKO先生と演出を考える中で、そういうところを参考にしていきながらつくっていきました」

 「僕自身もある意味では、みなさんの応援の思いっていうのは、本当に魂を込めて応援してくださってる方もたくさんいるんだなと思っていて」

 「前に(演じたプログラム)『ノッテ・ステラータ』の時に、みなさんの思いみたいなものが光っていて、『満天の星みたいだった』と言ったことがあったんです。今回のこのプログラムは皆さんの応援の光がすごくまぶしくて。でも、皆さんの思いととも一緒に滑っている。けど、自分はもう見たくないとか、でもまた一緒に滑るとか、最終的に皆さんの思いを集めて自分はまた滑り続けるんだ、みたいなことを表現したつもりです」