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(公約を問う)16:選挙制度改革 一票の格差、抜本対策先送り

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衆院の選挙制度改革、各党は

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新区割り法案を参院が否決したとみなす動議を可決した衆院本会議。その後、与党など3分の2以上の賛成多数で再可決され、成立した=6月24日、国会内、樫山晃生撮影

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政治部・星野典久記者

■定数削減、数で折り合わず 少数政党「比例中心」

 衆参の選挙制度改革は原則、国会に議席をもつ各政党の合意をめざして進んできた。一票の格差是正、定数削減、制度の抜本改革。今も取り組むべき課題はたくさんあるが、政党によって利害が異なりなかなかまとまらない。参院選後はどうなるのだろうか。

 消費増税導入への世論反発を抑えようと掲げた定数削減と、最高裁に「違憲状態」と指摘された一票の格差の是正。この二つを実現しつつ、少数意見の反映も可能にする選挙制度の抜本改革。与野党の協議は、各党がそれぞれの思惑で主張するこの三つの課題の間をさまよった。

 衆院定数は小選挙区300、比例区180。衆院が解散された昨年11月16日、自民、民主、公明の3党がかわした合意は、定数削減について、6月に閉会した通常国会までに結論を出すことだった。

 与野党協議に向けて、自公両党は、比例定数180を150に減らし、うち60を中小政党に重点的に配分する自公案をまとめた。複雑な仕組みにしたのは、一定の削減幅を確保しつつ、比例区中心の公明党に配慮したためだ。

 一方、民主党は小選挙区を30、比例区を50削減する法案を、日本維新の会は小選挙区を60、比例区を84削減する法案を出し、身を切る姿勢をアピールする。

 ただ、両法案とも他の野党の理解を得られないままの「見切り発車」だった。みんなの党は削減の方向では一致するが、格差を完全になくすよう訴えて、定数300の完全比例代表制を提案。両党との溝は深い。

 共産、社民両党は、定数削減そのものに反対だ。共産党は昨年の総選挙で比例区で8議席を獲得したものの、小選挙区は全敗。公約では「小選挙区は投票権の平等という憲法の原則とは両立できない制度」と比例代表制を訴える。

 比例、小選挙区いずれも1議席だった社民党も「少数会派の切り捨てにならないよう求める」と比例代表中心の制度の必要性を主張する。少数政党にとって、比例区の削減は死活問題で簡単にのめる話ではない。

 協議は平行線で、閉会直前にまとまったのは、「参院選後速やかに各党間の協議を再開し、結論を得る」との確認事項のみ。次の期限も設定されなかった。

■参院選挙区のあり方様々

 今回の参院選から、福島、岐阜の改選数が1ずつ減り、神奈川、大阪が1ずつ増えた。昨年11月に成立した選挙区定数を「4増4減」する参院選挙制度改革法に基づく変更だ。

 公示日前日の3日現在の選挙人名簿登録者数で見た一票の格差は、議員1人あたりの有権者数が最も多い北海道と最も少ない鳥取で4・77倍。5倍をわずかに切っただけだ。

 最高裁は2012年10月に、前回の10年参院選を「違憲状態」と判断し、格差の原因となっている都道府県を選挙区とする方式を見直すよう求めた。参院でも抜本改革の議論は続いていたが結論は出ず、今回は「4増4減」のみ。参院選挙制度改革法の付則には、16年の参院選に向けて選挙制度を抜本的に見直すことが明記されている。

 各党は、今回の参院選でも改革案を公約に掲げる。主張のポイントは衆院同様、議員定数削減と選挙制度のあり方だ。

 民主党は衆院の半分にあたる40議席程度の削減を求める。公明、共産、社民各党は現行制度を廃止。全国を9〜11ブロックに分けた上で、大選挙区制または比例代表制にする抜本改革を提案する。特に共産、社民両党は議員定数の削減に反対の姿勢だ。日本維新の会やみんなの党では、定数削減はもとより衆参を統合する一院制の主張が際だつ。

 肝心の自民党だが、「抜本的な選挙制度改革は、16年の参院選までに実現を目指す」との主張にとどまる。10年の参院選公約では「衆参722人の国会議員を13年までに1割、16年に3割削減」と明記した。しかし、昨年末の衆院選と今回の参院選公約では具体的な削減数に触れていない。

 公明、共産、社民が主張する現行の選挙区の廃止は、選出議員を多く抱える自民党や民主党では抵抗が強い。一方で、都道府県を選挙区とする現行制度での格差是正には限界がある。

■諮問機関で議論も 格差是正、秋にも最高裁判決

 先の通常国会では、衆院小選挙区の定数を「0増5減」する新区割り法が成立した。11年に最高裁が「違憲状態」と判断した区割りを変更し、一票の格差は最大1・998倍(10年国勢調査に基づく)となった。違憲判断の目安とされる2倍をギリギリ切り、自民党は公約に「違憲状態を回避した」と明記。ただ、すでに今年3月の推計人口では2倍以上となる選挙区も出ており、微修正による対応は限界に近づいている。

 参院選後の選挙制度改革はどうなるのか。まず焦点になるのは衆院。通常国会では与野党協議が計9回開かれたが、結論は出なかった。議論の場が課題となりそうだ。

 安倍晋三首相は6月26日の記者会見で、衆院の選挙制度改革について、「民間の有識者が冷静かつ客観的な議論を行う第三者機関を国会に設けることを提案する」と述べた。衆院議長のもとに諮問機関を設ける構想だ。

 過去には、首相の諮問機関である選挙制度審議会の答申がきっかけで制度改正が実現したことがある。1963年の2次審の定数是正と、現行制度導入につながった90年の8次審の答申の2回。ただ、第三者機関にゆだねても常にうまくいくわけではない。

 連立政権を組む公明党の山口那津男代表は「各党の実務者協議で大きな方向性を一致させないと、第三者機関にゆだねてもその結論を立法府が受け止めきれない」と「丸投げ」は難しいとの立場だ。

 実際、8次審の前には、自民党は総裁直属の政治改革委員会で、小選挙区制度に比例代表制を加味する制度の導入検討を明記した「政治改革大綱」をまとめた。当時はリクルート事件を受け、政治改革を求める強い世論があった。今回、首相が旗を振っても、話が進むかは見通せない。

 早ければ、秋にも12年衆院選についての最高裁判決が出る。最高裁は11年、地方に手厚く議席を配分する「1人別枠方式」の廃止を求めた。仮に0増5減による改革が「不十分」と判断されれば、国会の権威は失われ、「外圧」による改革を迫られる。

     ◇

 〈視点〉党利党略離れ真摯な議論を

 【政治部・星野典久記者】定数削減の議論を「バナナのたたき売り」にしてはいけない。与党は自公案をまとめて「最低限の責任は果たした」とほおかむりし、一部を除く野党は「それでは足りない」と突っ張ることで政治の不作為を与党のせいにする。これでは削減幅を競っているだけでまとまる見通しはない。

 そもそも、選挙制度改革は、一票の格差を是正する必要性から出てきたものだし、民意をどのように議席に反映させるべきかという政治の根本が問われている課題のはずだ。だから、私たち有権者にとっては、決してひとごとではない。政党や政治家には、党利党略を離れて議論する真摯(しんし)な態度を求めたいし、私たちも政党や政治家を見る目を養う必要があると思う。

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