昨秋、実施した朝日新聞デジタル×講談社×ネットギャリー(NetGalley)の3社共同の作家応援企画に多数のご応募ありがとうございました。
 当選された方には、対象の注目新刊本2冊のゲラを発売前に読んで、レビューをお寄せいただきました。今回は、その一部をご紹介します。発売をお楽しみに!

ごっこ

著者:紗倉まな

出版社:講談社

発売日:2023年2月22日(予定)

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【さくら・まな】1993年、千葉県生まれ。工業高等専門学校在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。文芸誌「群像」に掲載された『春、死なん』は、20年度野間文芸新人賞候補作となり注目される(撮影:YUKI GOTO)

 
 

 

当選者のレビュー

*「おすすめ度」は、ネットギャリー上でレビュアーが選択したものです。

■54歳/女性/会社員(製造)
おすすめ度★★★★☆
 吟味された濃密なフレーズが、行間から溢れるように詰め込まれている。「ごっこ」の前半は、読み手もさながら主人公たちの車に同乗したかのように、みっしりと詰まった言葉の澱をゆっくりかき分けるように進んでいく。不意にギアが切り替わり、周囲の景色が加速度をつけて流れていく。この潔いまでの緩急に、作者の底力と、まだ自分でもそれを制御できないかのように思われる青さを感じる。本書の独特のスピード感を、ぜひ最初から一気に読んで体感して貰いたい。

■59歳/女性/自営・自由業
おすすめ度★★★★☆
 女性の深い内面を抉り出す、新しい「フェミニズム文学」を予感させる筆力のある短編三編。「ごっこ」に出てくるモチノ君のような「くず男」は、世の中の色んな所で女性を傷つけようと隠れている。多くの女性読者が、この作品を読みながら過去の古傷の痛みを感じるだろう。「見知らぬ人」は、「女性の本当の敵は往々にして女性」であり、「大事なものの価値は失ってみないとわからない」という悲しい現実を見せつける。「はこのなか」は、多くの女性が気づかないうちに誰かを傷つけているかもしれないことを教えてくれる。男性読者にとっては、自分たちが気づかなかった女性の心情が顕かになるという意味で、この短編集はミステリー小説にもなりうるであろう。ページをめくる手が止まらなくなるストーリーテラーでありながら、人間について考えさせられる、エンタメ・純文学両方の魅力を持った傑作だ。

■44歳/女性/放送・出版・広告・マスコミ
おすすめ度★★★★★
 「いびつな恋愛の日常を描いた短編集」。だが、それだけにとどまらない独特の雰囲気が、収録作品の全篇を通じて漂っていて魅力的だ。ありふれた他者の恋愛を覗いていたはずの私たちは、いつの間にか、ちょっとした事件の目撃者になってしまっている。作者が「ぐずってる人たちしか出てこない」と言い表していた登場人物たちもいい。最初は決して好感を持てないのだが、読み終わる頃にはどこか懐かしい、青春時代の旧友のような気持ちを抱くようになり、時折彼らのことを思い出しては「元気でやっているだろうか」と考えたりする自分がいる。これからも作者の書くものを読んでいきたい、と感じさせる作品ではないだろうか。

■44歳/男性/教員
おすすめ度★★★★☆
 肥大化する自己承認欲求や、ミソジニー、モラハラ、LGBTQ+などなど、登場するトピックは非常に現代的でありながら、それらを通して語られる心情であったり「人間」であったりは、普遍的であるところに面白さを感じた。出てくる人物たちはそれぞれたまらなく愛おしく、そしてしょうもなかった。そこら辺にいそうでいない、それでいて「こういう人いるよね」とも感じられる。ある意味人間賛歌なのだろうと思う。

■57歳/女性/サービス
おすすめ度★★★★☆
 著者の、状況や心情を描写する表現が非常に豊かで、じっくりかみしめて味わうように読み進めた。表題作の「ごっこ」は、終盤、はりつめた緊張感が伝わる臨場感たっぷりの描写に、まるで映画を観ているかのように情景が頭に浮かぶ。ミツキとモチノの鮮やかな攻守の入れ替わりが小気味よい。ねっちりとした体が発する様々な臭いが読んでいるだけで漂ってきそうな「見知らぬ人」は、けだるい男女の物語が途中から不思議で滑稽な女同士の物語へと変遷して面白い。終わり方はあまりに意外で、最後の2ページを何度か往復して確認してしまった。「はこのなか」は、戸川のタクボに対する長年の、どうにも叶わぬ恋情が瑞々しくて切ない。

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ゴリラ裁判の日

著者:須藤古都離

出版社:講談社

発売日:2023年3月15日(予定)

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【すどう・ことり】1987年、神奈川県生まれ。青山学院大学卒業。 2022年、「ゴリラ裁判の日」で第64回メフィスト賞を満場一致で受賞 (写真/大坪尚人<講談社>)

 
 

 

当選者のレビュー

*「おすすめ度」は、ネットギャリー上でレビュアーが選択したものです。

■45歳/女性/公務員
おすすめ度★★★★★
 著者の須藤古都離氏にはいい意味で裏切られました。想像し得ない、壮大なエンターテインメントがあなたを待っています。波乱万丈のローズの半生を追いかけながら、読中、何度涙を流したことか。

■28歳/女性/会社員
おすすめ度★★★★★
 話せるゴリラを通して、人が生きる中で突き当たる壁や大切にすべきことを教えてくれる素敵な作品であるため、多くの方がこの本を読み自身の生き方や考え方について改めて考えるきっかけとしてお薦めしたいです。

■37歳/弁護士
おすすめ度★★★★★
 立ち上がる者がいて初めて、社会は変わっていく。 「日本で一番とがった文学賞」とも呼ばれるメフィスト賞を受賞した本作は、その賞にふさわしく、とがった、そして暖かい作品である。

■61歳/女性/不動産
おすすめ度★★★★★
 民俗学や司法ドラマのニュアンスもあり、人種問題の伏線も張られていたりして、色んな分野の作品を一挙に楽しんでいるかのようで、ページをめくる事を止めることができなかった。

■75歳/男性
おすすめ度★★★★☆
 ゴリラと人間の比較は人類が抱えている矛盾や不合理性を浮き彫りにする。本作は、文明社会とは何か、さらに人間が求める正義や命の尊厳について考え直すよい機会になる。

■46歳/女性/主婦・パート
おすすめ度★★★★★
 設定からしてぶっ飛んでいて面白いけれど、えー!!どうなっちゃうの?と思いながら読んだ後半が特に面白い。そして、圧倒的に不利に思える裁判を、ローズはひっくり返すことができるのか!?

■51歳/女性/会社員(自動車・輸送機器)
おすすめ度★★★★★
 法廷物としてぐいぐい惹き付けられた。圧巻は最後のローズの言葉である。十二人の陪審員たちはどのような結論に至るのか。本書でローズが純粋に問いかけるものを、正面から受け止めて読んでみてほしいと思う。

■69歳/女性
おすすめ度★★★★★
 10章以降は特に胸に迫る展開。ゴリラを通して人間の有り様を見る思いがした。種を超え生きることの厳しさと価値が伝わり、作品の壮大なスペクタルに魅せられ続けた。

■29歳/男性/映像技術関連
おすすめ度★★★★☆
 ローズみたいに純粋なキャラクターは、もう人間では描けないのかもと頭によぎる。ローズの素直な心の動きや疑問、戸惑いは翻って人間社会のややこしさを映す鏡のようだ。

■58歳/女性/主婦・パート
おすすめ度★★★★★
 主人公のローズが素晴らしい。彼女のキャラクターこそが、この小説の一番の魅力だろう。人間とは、動物とは、そして神とは…。簡単に結論を出すことが出来ない大きなテーマをはらんだ大作である。

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