そのお酒の飲み方、大丈夫? 私は危なかった

食のおしゃべり

大村美香
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 あいつとの付き合いはもう、30年以上になります。確かに、痛い思いは何度もしてきました。でも、私を楽しくしてくれるし、美味しい思いもたくさんしたし、こんなに危ない奴だったなんて、知らなかったんです!!

 ……何の話? 腐れ縁の友だちでも? いいぇ、相手はお酒なんです。

 食をテーマに活動をするジャーナリストらで作る「食生活ジャーナリストの会」(JFJ)という組織があり、定期的に勉強会を開いています。私も会員で、5月21日に「その飲み方、大丈夫?~アルコール問題を考える」と題した勉強会に参加しました。講師を務めた成増厚生病院副院長・東京アルコール医療総合センター長、垣渕洋一さんのお話が大変興味深く、今回はその一部をご紹介したいと思います。

 「アルコールは嗜好品ではありません。薬物です」。講演中、私が最も強く印象に残った垣渕さんの言葉です。アルコールの作用は麻酔薬に近いけれども、人体に作用する量と致死量がとても近いのが特徴。ほろ酔い気分になる(人体に作用する)量の約4倍のアルコールを飲むと、死に至る恐れがあります。「認可されている精神科の薬は、致死量が最低でも作用量の20倍以上あります」。それくらいアルコールは危険なので、「消毒薬としては認可されているものの、内服薬や注射薬としては認可されていません」。

 酒の魅力とは何か。一つはこのアルコールの薬理作用です。少量の飲酒で、脳機能が軽度に低下し、鎮静効果が出て気分が安定して多幸感につつまれる。ポーッと気持ちよくなった酔いの状態。「アルコールほど切れのよい『薬』はありません」と垣渕さんは言います。

 また、酒に付随する人間関係的な要素、例えばコミュニケーションが楽しくスムーズになる、商談や根回しが上手くいく、嫌なことが発散できる、といった側面も、もう一つの魅力に数えられます。

 こうした二つの魅力に影響を受け、人間は酒を飲むのが習慣となり、「酒好き」が誕生します。そして、酒の量が増えていければ「大酒飲み」となり、飲酒問題が現れてきます。

 飲酒に伴う問題は多岐にわたります。健康(肝障害、糖尿病、けが、うつ病認知症など)ばかりでなく、家庭(暴力、離婚)、職場(遅刻、欠勤、退職、失業)、経済(借金、貧困)などなど。アルコール依存症は、アルコールのコントロール(制御)ができなくなった病気。「やめようと思ってもやめられない」「いつも飲み過ぎてしまう」「お酒で問題が起こってもやめられない」といった状況に陥ります。

 垣渕さんは、「『大酒飲み』と『依存症』の境界は、グレーゾーンが広い」と説明します。「一線を越える」という表現がありますが、そのようなはっきりくっきりしたラインがあるわけではなく、気がついたら深刻な状態になっている。話を聞いていて、そんなイメージを私は抱きました。自分では大丈夫、と思っているのに、いつの間にか危険域に入ってしまっている……。ソレッテコワイヨ。

 依存症と依存症以外がくっきりと分けられないのですから、依存症の人だけを治療の対象とするより、広く酒の飲み方をチェックして、リスクの高い飲み方をしている人に酒の量を減らすよう働きかけるなど、早期に予防的に対応することが、現在では重要視されているそうです。

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 そのための判定テストも開発されています。WHO(世界保健機構)が開発したAUDITというテストで、私もやってみました(このサイトで体験出来ます。https://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/self_check/audit.html別ウインドウで開きます)。結果は「有害飲酒」レベル。「現在の飲み方を続けると、健康や社会生活に影響が出る恐れがあります」と判定されてしまいました。酒の量を減らすべし、と。

 では、楽しさと健康維持を両立する酒量は、どれくらいなのか。男性の場合は1日のアルコール量20g以下が望ましく、せめて40g以下であれば病気になりにくい。女性の場合、1日アルコール量10~15gが上手な飲み方で、せめて20g以下だと病気になりにくい、と垣渕さんは言います。アルコール20gは、日本酒で1合、ビールだと500ミリリットルにあたります。

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 「酒は飲んだ分だけリスクが上がる。リスクのない飲み方、というのはありません」と垣渕さん。飲んだとしても、この程度に収めなければならない目安と理解するべきでしょう。

 なお、これはアウト、というハイリスクの酒量は、1日アルコール量60g以上。日本酒で3合、ビールで1.5リットル、焼酎300㏄にあたります。体に悪いだけでなく、社会的な問題も無視できなくなる量。でも、酒飲みの感覚としては、ちょっと杯を重ねれば、簡単に手の届く量です。

 飲む頻度はどうなのか。質問してみました。「休肝日を週に2日、できれば連続して設けてほしい」とのこと。では、飲まない日を多くすれば、飲む日は少し多めに飲めるんでしょうか?と重ねて質問すると、少し苦笑されてしまいました。よっぽどの酒好きと思われてしまったかも。「それであれば、1週間に飲む量を10ドリンク(1ドリンクはアルコール量10g)として、1週間でやりくりする、という考え方もできます」。大事なのは、結果として今より飲酒量を減らすこと。自分なりにできることを考える必要がありそうです。

 最近は、「減酒外来」を設ける医療機関もあり、全国で少しずつ増えているそう。また埼玉県の朝霞保健所では、2014年から毎年、減酒講座を開設しており、垣渕さんが講師を務めています。

 飲み過ぎは健康をはじめ様々な問題を引き起こすことは知っていたつもりでしたが、講演を聞き、改めて、その危険度、酒との付き合いは思っていた以上に注意深くしなくてはならないと認識しました。私自身は、飲む日の量はこれ以上増やさないようにしつつ、飲まない日を増やしてみようと思っています。

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/(大村美香)

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大村美香
大村美香(おおむら・みか)朝日新聞記者
1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)