災害時に役立つ乾物、「食の防災訓練」を暮らしの中に

食のおしゃべり

大村美香
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 「乾物を防災食に」。現代のライフスタイルにあった乾物の生かし方を考え、普及活動をしている一般社団法人「DRY and PEACE」がそう提案しています。万一の時、なぜ乾物が役に立つのか? 4月下旬に都内で開かれた乾物防災食入門講座をのぞいてみました。

 講師を務めるのは、DRY and PEACEのサカイ優佳子さんと田平恵美さん。二人は、乾物を、「水分を減らして常温で長期保存できる食品」と定義します。干し野菜、ドライフルーツ、ナッツ、海藻類、シイタケ、煮干し、いり大豆、高野豆腐など、数多くの種類があります。この幅広さこそ、乾物を防災食に加えるメリットの一つ。

 非常時の食事は、エネルギー源になるご飯やパンなど主食に偏りがちですが、乾物を取り入れることで、その他の栄養素を補うことができます。特に、野菜やノリやヒジキ、昆布、棒寒天など、食物繊維を豊富に含む食品が多いところが心強い。

 常温保存可能な点はそもそも備蓄に適している上、「手に入れやすく、値段が手頃」と二人は言います。切ってあるものが多いので、調理の際包丁がいらず、ゴミや洗い物が減らせるのも特長です。

 では実際、どんなメニューが可能なのか。当日実演されたものを2品紹介しましょう。

 「切り干し大根とツナ缶のあえもの」はポリ袋一つでできる1品。切り干し大根15g、ツナ缶(ノンオイル・無塩タイプ)1缶分(70g)、塩昆布2g、梅干し1個(あるいはフリーズドライの梅干し1.4g)をポリ袋に入れ、外からもんでなじませて15分おけば、できあがり。器に盛って白いりゴマをふります。

 切り干し大根はツナの汁気で戻ります。作る際、まずツナをポリ袋に入れ、空き缶に残った汁気を干し大根でふきとりました。「災害時はゴミの収集も困難。水分が缶に残っていると、しばらくしてから臭いが発生してしまいます。こうすると、悪臭が減らせます」とサカイさん。水が使える状況なら、少量の水ですすいでおくといいでしょうとのこと。

 もう1品の「干しニンジンと寒天のサラダ」は、オレンジジュースで戻します。ボウルに棒寒天2分の1本を細かくちぎって入れ(水があれば、さっと洗って水気を絞ってからちぎる)、干しニンジン20g、オレンジジュース90ccを加えて混ぜ、ニンジンが軟らかくなったら完成。フルーツサラダ的な味わいで、ジュースを吸った寒天は、オレンジのような食感と味に変化していました。干しニンジンが近くの店にない場合、ネット通販で購入できるほか、せん切りや輪切りにしてザルに並べて干すと、家庭でも作ることができます。

 どちらも加熱なしで作れます。「乾物は水で戻さなくては」と考えがちですが、「水分があればいいのです」と二人は言います。乾物と一緒に缶詰、ペットボトルなどの飲料をストックしておけば、災害時も栄養バランスを考えた食事を作ることが可能になります。

 例えば大きな地震が起きた後のサバイバル生活について、避難所に行って備蓄されていた非常食や炊きだしを食べてしのぐ、というイメージがありますが、避難所は、基本的に、住まいが使用不能になった人のためのもの。家が使える状態なら、そこで生活していかなければなりません。ライフラインが復旧するまで、最低3日~1週間分の食品備蓄が各家庭で必要とされています。

 もしもの時に乾物を活用するには、普段から乾物を使い慣れていることが大切。二人は、「乾物を日々の食事作りに取り入れることは食の防災訓練になります」と話します。いつもの食事で使うことで、乾物の使い方も身につき、食べた分だけ買い足して備蓄するローリングストックもやりやすい。乾物を味方にできれば、防災力がアップできそうです。

 乾物の中には、いり大豆やドライフルーツ、のり、煮干しのようにそのまま食べられるもの、オートミールやクスクス、ワカメなど戻せば加熱せずに食べられるものがある一方、アクを抜いたり、長く加熱しなくては食べられないものもあります。食べ物の好みもありますし、それぞれの乾物の特徴を知り、自分の家では何が使えそうか、自分なりのプランを考えてみるのがよいかと感じました。

 DRY and PEACEは、乾物防災食講座を随時開催しているほか、18日(土)には「乾物大学」と題し、防災、時短料理、地域文化など多彩な角度から乾物について講義するイベントを横浜市で開きます。学食(食事)や購買部(販売)コーナーも設けるそうです。詳しくはサイト(https://www.dryandpeace.com/別ウインドウで開きます)へ。

 また災害時に備えた食品の備蓄に関しては、農林水産省が作成したガイドが参考になります。備蓄に適した食品の選び方や実践アイデアが紹介されています。

(掲載サイト:http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/別ウインドウで開きます

 

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/(大村美香)

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大村美香
大村美香(おおむら・みか)朝日新聞記者
1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)