人権を守るしくみとして、きちんと位置づけたい。
認知症や障害などで判断能力が十分でない人の財産の管理、契約などを支援する「成年後見制度」を改革する議論が、法制審議会の専門部会で4月に始まった。
介護保険制度と同じ2000年に始まり、高齢化社会に対応してきた一方、さまざまな課題が指摘されている。利用者を尊重し、必要な支援を柔軟に与えられる制度へ、再構築してほしい。
制度は、預貯金や不動産の管理・処分、福祉サービスの契約、住まいの確保など、利用者の生活全体を支えるものだ。本人や家族らが申し立て、家裁が必要かどうか判断し、成年後見人などを法律・福祉の専門家や親族から選任するしくみだ。
ただ、25年には認知症の人が約471万人になると推計される一方、昨年末の利用者は約25万人にとどまり、広く浸透したとはいえない。
最大の課題は、いったん成年後見が審判で決まると、原則、本人の存命のあいだは続く硬直的な面だろう。現実には、求められる支援は本人の老いや心身の状態による。
例えば家族からの相続を契機に成年後見人に弁護士が選ばれた場合でも、相続の後は制度の必要性自体が失われたり、生活支援の優先度が高まったりすることも多い。利用の終了、成年後見人の変更といった手続きを、本人の状態に合わせて柔軟にできるようにする見直しが急務だ。
成年後見人らには包括的な代理権があり、利用者がした契約を取り消すこともできるが、この権利が強大すぎるのではという懸念もある。部会の議論では、まず利用者自身の声に耳を傾けるべきだ。
障害者権利条約にもとづき、日本政府を審査した国連の委員会は22年、成年後見制度について「すべての障害者の自立、意思、及び選好を尊重する意思決定支援のしくみを設けるべきだ」と勧告した。国際人権基準に照らした再検討も求められている。
一方、判断能力が衰えた人たちをねらった悪質商法もたえていない。こうした被害から当事者を守ることは大前提で、消費者保護法制などにも広げた検討が必要となる。
高い専門性が求められるのに、見合う報酬を出す財産が利用者にないことも珍しくない。成年後見の申し立てを自治体がするケースは2割以上に上り、地域の福祉とのスムーズな連携も大きな課題だ。
家裁が安心して選任できる市民後見人の養成に積極的な自治体もある。身近な担い手あっての制度だろう。