(社説)国立大学政策 失敗を直視し見直す時

社説

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 国立大が04年に法人化されてから20年がたった。

 教育や研究を活性化させる目的と行財政改革の流れが一体化して実行されたが、その後の政策で教育・研究環境が悪化した大学が多い。当初描かれた理想像とはほど遠く、日本の研究力は低下し、現場は閉塞(へいそく)感に満ちている。国はこの間の失敗を検証し、見直す機会にしてもらいたい。

 朝日新聞は国立大の全学長86人にアンケートを行い、20年前と比べた現状の評価を尋ねた。回答した79人の7割弱が、悪い方向に進んだとした。経営や人事の自由化など法人化そのものを批判する学長は少なく、地域連携・地域貢献や学生支援も進んだ。

 だが、人件費や光熱費にあてる運営費交付金を減らし、研究費の多くを競争して得る仕組みとした政策の悪影響を、学長の大半が指摘した。

 交付金を減らされた国立大は、人件費を抑えて対処してきた。無期雇用の教員を減らし続け、今や若手を中心に全体の3割以上が任期付きだ。

 競争的資金の対象は、短期的な事業が多い。安易に成果を手に入れやすい研究に流れたり、申請書類作りに研究時間を奪われたりする教員が続出した。

 その結果、注目度の高い論文数が04年の4位からG7諸国で最下位の13位に落ちるなど、研究力は低下した。過度に目先の競争を促し、本来の学問に注ぐエネルギーをそぎかねない政策の失敗を、国は直視すべきだ。

 環境悪化が現場に与える影響も心配だ。アンケートでは学長の4割が、教職員の意欲が「低下している」と回答。同時に調査した教職員は、さらに深刻に受け止めていた。

 政府や産業界は、国立大に経済再生につながるイノベーションの創出を期待してきた。そのために進めた「選択と集中」政策の悪影響が各方面から指摘されているのに、国には見直す姿勢が見られない。それどころか、数大学にそれぞれ年数百億円を集中的に配る国際卓越研究大学制度も始めた。

 競争を促しさえすれば成果が上がると短絡的に考えるのは誤りだ。飛躍的な研究成果には自由な発想や多様性、裾野の広さが欠かせない。長い目で見て支援すべきなのは、有力大や応用研究以上に、若手研究者が成長する場でもある地方大や基礎研究だ。

 交付金削減による財政難に少子化も重なり、閉学の危機感を持つ国立大さえある。各地の貴重な教育・研究拠点が取り返しのつかない状況に陥る前に、政府は政策の見直しに着手する必要がある。

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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2024年4月10日7時47分 投稿
    【視点】

    昨年12月に、多くの批判の声にもかかわらず可決してしまった国立大学法の変更において、焦点となっていたのは大規模な国立大学を中心として「運営方針会議」を置くということであった。この「運営方針会議」は少数の外部委員から構成され、目標や計画、予算

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