岐阜県岐南町の町長が職員への多数のハラスメント行為を問われ、5日辞職する。

 問題発覚後設置された、弁護士3人による第三者委員会が認定したその言動は、内容も頻度もすさまじいものだ。

 女性職員を人目につかない場所に呼び出して体を触ったり、応接室で抱きついたり、車に同乗させて手を握ったり。その一方で、気に入らない部下に激高し、「懲戒」「クビ」を連発した。

 町長は「ねぎらいや感謝のつもりだった」と弁明したあげく、辞職届を出した。いまだにこんな発言をする感覚では、辞職も当然だろう。

 2020年11月の町長就任直後から問題行動があり、職員アンケートで回答の半数が「不快なことをされた」と答えた。退職者もいる。

 近年、各地で首長や議員のセクハラ、パワハラが問題になっている。選挙で勝ったことをかさに着た、ゆがんだ選良意識が見え隠れする。

 せめて組織はブレーキをかけられなかったのか。

 実は、町にもハラスメント防止規定があり、総務課に相談窓口もあった。だが町長への情報漏れを警戒し、記録すら残せない始末。調査しても町長が処分を決定する仕組みでは、機能しなかったろう。

 困り果てた町の管理職たちは、女性職員に自衛を促すのがやっと。一人で町長室に入らないよう注意したり、録音機を持たせたりした。

 こんな状態なのに、町議会や町監査委員は動いていない。職員の苦情を受け付ける広域の公平委員会組織もあるが、相談はなかったという。

 第三者委の報告書によると、職員らが「最後の手段」として週刊文春に情報提供。昨年5月、文春オンラインが報じた。経過から、職員たちの閉塞(へいそく)感の深さが伝わる。

 総務省によると、全国の自治体の9割でハラスメント防止の体制があるというが、果たしてトップも対象にできるのか。点検すべきだ。

 東京都狛江市は市長のセクハラ辞職をきっかけに18年、特別職や議員も対象のハラスメント防止条例をつくった。外部の財団も相談窓口にし、有識者の入る苦情処理委員会が審議し、特別職の案件は結果を公表する。地方自治研究機構によると、全国約40の自治体が同様に条例を持つ。

 有名企業の社長のセクハラも問題になったばかり。安心して働くため、こうした外の目、外の耳がふだんから欠かせない。

 岐南町では50日以内に町長選が行われる。政見とともに、職場を変えるアイデアも競ってもらいたい。