あなたが住む町は、だれもが生きやすい場所ですか。

 日本で生活する外国人は、昨年6月末の統計で約322万人。過去最高を更新した。

 少子高齢化と地方の人口減を背景に、働き手を海外に求める流れが強まっている。幕末、第2次大戦後に続く、「新たな開国期」ととらえる研究者もいる。

 在留資格別で「永住者」の次に多い「技能実習」が今年、見直され、非熟練労働者の定住につながる受け入れが本格的に動き出す。

 国籍や民族の違いを超え人々が支え合う社会を、どのようにつくっていけるだろう。

 ■隣にいる人は

 国内最多の技能実習生がいる愛知県。カトリック教会司祭、大海明敏(おおみあきとし)さん(59)の元には、宗教や言語を問わず外国籍の若者たちが集まってくる。日本語の壁があり人間関係に悩んでいる人が多い。支援団体や弁護士と協力して、職場にかけ合うこともある。

 大海さんは1984年、ベトナム難民として来日した。政府が委託した受け入れ施設で3カ月間、日本語の授業に集中したが、就職先の大阪の工場では「おーい、みんな、めし」という食事の合図から、わからなかった。

 励ましてくれる人に出会って名古屋の南山大学に進学、神父になり、日本国籍も取得した。いまは日本語、英語もつかって支援する側にいる。

 話を聞いた人々の、深い孤独感を感じとってきた。雇用主や近所の人には「どんな国から来て、何を食べ、どんな言葉を話すのか、興味をもってほしい。その方がお互い、楽しいでしょう」と願う。

 コロナ下で新規入国がとだえた後、農・漁業、製造業などで深刻化した人手不足は、この社会がいかに外国人に支えられているかを示した。

 長時間労働、セクハラなどの人権侵害が批判されてきた技能実習は、本人の権利保護により重きを置いた制度に近く一新される。3年後には「特定技能」に移行し、家族も呼び寄せて安定して生活できる道が整いつつある。

 ■移民政策の不在

 外国籍住民がさほど多くなかった大都市圏以外の地域で2010年以降、にわかに増加が進んでいる。

 そんな傾向が、徳田剛・大谷大学准教授が都道府県を在留外国人数で3群に分けた分析でわかった。新しい課題と向き合うことになった地方の自治体の対応には、ばらつきも多くみられるという。

 「就労先としての日本の人気は下がっており、特に地方は『お願いしても来てもらえない』状況にいつ陥ってもおかしくない。ニーズに応えうる、整合性ある国の政策が必要だ」と徳田さんは言う。

 「単純労働者は受け入れない」との建前を長く続けた政府は、包括的な移民政策を掲げていない。在留資格に基づく管理に重きを置いてきた。

 当事者にとってより切実な労働問題、医療、子どもの教育などの支援はおもに自治体や民間団体が担ってきたが、そこには限界もある。

 人口減を見すえて多文化共生を打ち出したり、受け入れプログラムで呼び込んだりする自治体もある。地域に合わせた工夫で、共生が自然に広がるのであればいい。

 一方で、どこに住もうと、それぞれの権利や尊厳が守られる基盤をつくるのは、政府の役割のはずだ。

 国連加盟国の少なくとも3分の1が認める定住者の地方参政権は、日本にはない。調停委員、民生委員をはじめ就けない公務があるなど、外国籍住民が社会に参画するにはさまざまな制約がある。

 地域社会やネット空間で、海外にルーツがある人への偏見に基づく差別的な言動はやんでいない。

 管理の対象ではなく、ともに社会をつくる存在と位置づけた施策を、手遅れになる前に議論しなければならない。

 ■心を交わすことから

 コミュニケーション、そしてその人の権利を守る土台となるのが言葉だ。

 能登半島地震では外国人も被災した。必要な情報にアクセスできなければ命にかかわる。平時でも、多言語での説明や、病院、役所で通訳を気軽に利用できることが、安心したくらしにつながる。

 外国籍住民対象の調査では、情報発信の言語として7割が「やさしい日本語」を望んだ。小学2、3年生で習うくらいのシンプルな表現だ。

 日本語話者の方が意識し、できることもある。

 移民受け入れの歴史が長い欧州では、政府が公用語教育に責任をもち、数百時間ものカリキュラムを無料で提供することも珍しくない。

 日本では、ボランティアや市民団体が中心となり地域の日本語教室を動かしてきた。

 後れをとったが、日本語教育推進法が19年にでき、その支援で教室を立ち上げる自治体もある。通学が難しい人がどこでも勉強できる教材、機材の提供も求められている。

 日本語教育機関を政府が認定し、日本語教員の国家資格をつくる法律も、4月に施行される。教育の質を引き上げる元年となってほしい。