(社説)大深度地下 異変が前提の慎重さを

社説

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 地表から40メートル以上深い「大深度地下」の利用が広まるが、地下の構造は調べ尽くせず、工事には不確実な要素が残る。「想定外」の陥没事故が起きた東京外郭環状道路(外環道)の工事を教訓に、慎重の上にも慎重に作業をするべきだ。

 東日本高速道路(NEXCO東日本)が外環道の工事をしていた東京都調布市で、20年秋以降、道路の陥没や地下の空洞が相次いで見つかった。振動や音の訴え、地面のひび割れなどもあった。東日本高速の有識者会議は「特殊な地盤条件下で行った特別な作業」が原因と結論づけた。現場では、地盤を補修するために、その上にある住宅約40軒の解体が必要とされ、工事が今年1月から続いている。

 住民にとっては、降ってわいた災害としか言いようがない。裁判所は一部区間の工事差し止めを認めたが、住民側は全区間の差し止めを求めており、紛争は最高裁に持ち込まれた。

 大深度地下は、通常は使用しない空間だ。01年施行の大深度地下利用法で、3大都市圏を対象に、公共目的なら国などの認可で、土地所有者の同意や用地買収なしに利用できることになった。ルート設定の自由度も高く、予算や工期が抑えられる。「通常は、土地所有者には補償すべき損失が発生しない」ことを前提にした仕組みだった。

 リニア中央新幹線でも首都圏と愛知県で50キロにわたり大深度地下を利用する。JR東海は先月末、川崎市で試験掘削を始めた。問題が発生しないか確認しながら進めていくという。外環道の教訓も踏まえ、地下の状況の確認や排出土砂量の管理など施工方法の改良もしたという。

 日本は地質構造が複雑だ。平野部の地下も一様でなく、軟弱な地盤も広く分布している。外環道では、地下を調べたボーリング調査の不足も指摘された。リニアの工事での調査間隔は基本的に200メートル以下だという。ただ、地下は調べ尽くせず不確実性が残り、少し離れただけでも地質が異なる可能性はある。

 工事で地表に影響が及ぶ恐れは、外環道で顕在化した。工事にあたっては、弱い地盤に行き当たることや異変が起きることを前提にした調査や施工管理が必要だ。地表の事前の調査、工事中や工事後の測量や測定、目視確認も欠かせない。

 何の過失もないのに、突然、自分や家が危険にさらされる不安は大きい。住宅の資産価値も下がりかねず、転居を伴えば多大な負担も強いられる。事業者は、工事前後を通して、住民に対して十分に説明し、疑問に答え、もし損失や損害が生じるようであれば、正当な補償や賠償を速やかに講じる必要がある。

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