(社説)放送法の解釈 高市氏答弁 撤回明快に

社説

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 放送番組の政治的公平を定めた放送法4条の解釈をめぐって、先週の国会で、聞き逃せない答弁があった。

 総務省の内部文書を公開した立憲民主党の小西洋之参院議員が、所属する外交防衛委員会で質問し、総務省の山碕良志審議官が「極端な(番組の)場合でも一つの番組ではなく、番組全体を見て判断する」と答えた。

 2015~16年に当時の高市早苗総務相が行い、問題になった答弁とは明らかに構えを異にする言い回しだ。

 高市氏は(1)選挙中などに特定の候補者だけを殊更に取り上げる場合(2)国論を二分するような政治課題について、殊更に一方の見解のみを取り上げ繰り返す場合――という具体例を示したうえで、一つの番組のみであっても、こうした極端な場合には、政治的公平を確保しているとは認められないと述べた。

 しかし、先週の総務省の答弁によれば、極端な番組があっても、それ単体では政治的に公平かどうか判断しないことになる。総務省は、いわば上書き修正する形で、高市答弁を事実上撤回したのではないか。

 高市答弁は、その局が放送する番組全体をみて判断するとしていた従来の政府の立場を逸脱した。報道の萎縮を招き、事実上の検閲にもつながる。朝日新聞の社説は撤回を求めてきた。今回、総務省が修正にかじを切ったのなら、妥当なことだ。

 しかし、総務省は撤回や修正といった言葉を使っていない。官僚による非常にわかりにくい説明で済ませようとしており、問題が大きい。

 国民や放送事業者がまぎれなく理解できるよう、岸田首相や松本剛明総務相ら政治家が責任をもって説明するのが筋ではないのか。高市答弁を撤回し、いかなる場合でも一つの番組だけで判断しないとの解釈を、あらためて明快に述べるべきだ。

 国民が日々接する情報に大きな影響を与える放送法の政治的公平の解釈が、時の政治情勢などによってことあるごとに揺れ動いているように見える。著しく法的安定性を欠き、民主政治にとってゆゆしき事態であることを自覚してほしい。

 礒崎陽輔元首相補佐官の介入など、高市答弁に至るプロセスが妥当だったのか。こちらの問題もいまだ決着していない。総務省は「強要はなかった」とするが、内部文書の記述をみるとにわかに承服しがたい。

 総務省はおととい、内部文書の正確性が確認できなかったとする調査結果を公表した。公文書の信用性を揺るがすもので、放置できない。事実関係について、第三者による検証を改めて求める。

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