(社説)放送法の解釈 不当な変更、見直しを

社説

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 政府がメディアに対する干渉を不当に強め、国民の生活や思考の基盤となる情報を統制しようとしているのではないか。

 総務省が問題の内部資料を行政文書だと認めたことで、そんな疑念がますます深まっている。不透明な手続きによって行われた法解釈の変更を、見直すべきときだ。

 2015年、当時の高市早苗総務相は、放送番組が政治的に公平かどうか、ひとつの番組だけで判断する場合があると国会で明言した。これは、その局が放送する番組全体で判断するという長年の原則を実質的に大きく転換する内容だった。放送法の根本理念である番組編集の自由を奪い、事実上の検閲につながりかねない。民主主義にとって極めて危険な考え方だ。

 内部文書によると、この答弁は当時の礒崎陽輔首相補佐官の強い求めに沿ったものだった。総務省は、礒崎氏から「問い合わせがあったので、所管省庁としてご説明を申し上げた」だけで、答弁を強要されたことはないと主張している。

 しかし、文書をみれば官僚側が対応に苦慮していたことは明らかだ。本来は国会などでの開かれた議論なしには行うべきでない方針転換が、密室で強行された疑いも持たざるをえない。

 岸田首相は、この解釈変更が報道の自由に対する介入だとの指摘は「当たらない」と述べた。だが、不審な手続きを進めた政府がそう主張したところで、説得力はない。解釈変更に至る手順が適切だったのか、第三者による検証が不可欠だ。

 こうした経緯が明らかになった以上、高市氏の答弁自体も撤回し、法解釈もまずはそれ以前の状態に戻すべきだろう。制作現場の萎縮を招き、表現の自由を掘り崩す法解釈を放置することを許すわけにはいかない。

 内部文書をみると、礒崎氏から総務省への働きかけは、14年の衆院選で中立な報道を求める文書を自民党在京キー局あてに出した6日後から始まっている。番組内容をめぐって、同党がNHKなどの幹部を会合に呼び出したり、当時の安倍首相が公然と番組内容を攻撃したりしていたのもこのころのことだ。

 解釈変更は、このように政府与党が放送局への圧力を強めるなかで起きた。文書からは、安倍氏が礒崎氏の提案を強く後押ししていた様子もうかがえる。責任は高市氏や礒崎氏だけではなく、政府与党全体にあると考えるべきだろう。

 放送法ができた1950年の国会で、政府は「放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と述べている。近年のゆゆしき流れを断ち切り、立法の理念に立ち返るべきときだ。

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    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2023年3月12日17時11分 投稿
    【視点】

    高市大臣の辞任、議員辞職が話題の中心になっているきらいがあるが、総務省の公開した文書によると、高市大臣は当初は礒崎補佐官が求める解釈変更(補充?)の国会答弁を行うことに消極的だった様子がうかがえる。 自分(高市大臣)としては否定的だが

    …続きを読む