入管改革の原点は、どこへ行ってしまったのか。

 非正規滞在となった外国人の収容や送還のルールを改める入管難民法改正案を、政府は今週、衆院に提出した。人権を軽視した収容への批判から廃案に追い込まれた2年前の法案と、ほとんど変わらない内容だ。

 出入国在留管理庁は、退去強制処分になったのに出国を拒む人が21年末時点で3千人以上おり、確実に送還する対処法が必要だという。とくに難民認定申請中は送還しないルールが「誤用・乱用」されているとして、3回目以降の申請者らを例外とする規定を法案に入れた。

 だが、その目的と比べ、難民保護行政に与える影響があまりに大きい内容だ。申請中の送還禁止は難民条約に根ざす原則で、日本は04年の法改正で導入した。例外を安易につくれば、保護を求めてきた人を迫害の危険がある国に送り返すことになりかねない。難民認定が厳しい日本では、2回の申請ではねられても、保護の必要性がないと言い切れない現実がある。

 もちろん、収容、あるいは仮放免中という不安定な立場にとどめていいわけはない。難民に当たらなくても、なぜ帰れないのかを踏まえた上で、家族や支援者がいたり、働ける場を持っていたりする人には特別に在留を認めるなど、それぞれの事情に対応するのが先ではないか。

 早急な対処が必要なのは、収容手続きの適正化、透明化だ。

 刑事手続きなら裁判所の令状なしで逮捕・勾留されることはないが、入管の収容は内部の手続きで決まる。期限がなく先が見えないことは被収容者のストレスになる。19年、長崎県内の入管施設に収容中の男性が長期収容に抗議して食事をとらず、餓死する例まで出た。

 21年3月には、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管に収容されて6カ月半で病死した。人権を軽視した処遇は居室の監視カメラに記録され、遺族が国を訴えた裁判で公開される。国連自由権規約委員会は昨年11月、収容期間の上限の設定や、最短ですませる制度的保障を求めていた。

 ところが、今回の法案も、司法審査などの第三者のチェックを入れない内容にとどまっている。3カ月ごとに要否を見直して、収容継続なら入管庁長官が改めて判断するよう改めるというが、「上司」の判断でどう客観性を担保できるのか。

 この3年間は、コロナ下で施設収容を避ける必要もあって、仮放免や在留特別許可がかなり進んだが、構造的な問題は変わっていない。国内外の納得を得られる法案へと、与野党が根本的な修正をする必要がある。