半世紀ぶりの国産旅客機開発に幕が下りた。挑戦には失敗はつきものとはいえ、新たなものづくりの柱に期待された国家プロジェクトが頓挫した事実は重い。製造業の実力が低下している現実を直視し、教訓を次に生かす必要がある。

 三菱重工業は先週、1兆円規模の費用を投じてきたスペースジェットの開発を断念すると発表した。開発本格化の時点では13年に納入開始を予定していたが、設計変更などで6回も延期され、商業飛行に不可欠な「型式証明」も取れなかった。

 その間にブラジル・エンブラエルがライバル機の開発に成功したため、先行販売で市場を囲い込む計画が外れ、採算確保が見通せなくなった。経営資源の浪費を避けるためには、撤退もやむをえないだろう。

 航空機産業には高い技術力が必要で、参入企業は限られる。日本企業には部品生産で実績があり、完成機にも乗り出せば、高い利益や雇用を生み出せそうだ。国内の製造業を代表する三菱重工ならばできるだろう――。こう描いた青写真は、なぜ実を結ばなかったのか。

 三菱重工の泉沢清次社長は、「技術を事業にするための十分な準備、知見が足りなかった」と述べる。自社開発にこだわるあまり社外の人材活用が遅れ、米国などでの型式証明の取得に失敗した面があるのは確かだろう。技術だけでは事業化には至らないというのも、今さらではあるが重要な教訓だ。

 だが、果たして技術力そのものも十分だったのか。その点も冷静に顧みる必要がある。

 主翼に炭素繊維の複合材を使うのが軽量化の切り札のはずだったが、技術課題が解決できず、アルミに切り替えた。長所とされる低燃費と低騒音も、米社製の最新エンジン頼みで、他社との差別化は難しかった。

 この開発には、約500億円の国費も投じられた。失敗続きだった経済産業省主導の産業政策に、またも挫折が積み重なったといえる。

 西村康稔経産相は「極めて残念で重く受け止めている」と述べたが、失敗を検証し、責任の所在を明らかにする姿勢は見られない。それどころか経産省は半導体産業に巨費を投じるなど、補助金の規模を拡大している。官庁には、有望な技術を見極める能力が欠けているという自覚が求められる。

 日本の製造業は、かつての柱だった電機産業が衰退し、自動車産業も電動化技術で後れをとりつつある。先端を走っていた時期の自画像にとらわれていては、衰退は一層加速するばかりだ。過大な自己評価に基づく戦略を練り直すべきときである。