(社説)側近の差別発言 「包摂社会」は口だけか

社説

[PR]

 岸田首相と日常的に行動を共にし、広報担当としてスポークスマン的な役割も担っている秘書官から、耳を疑う差別発言が飛び出した。

 首相は就任当初から、「多様性のある包摂社会」を掲げながら、内実が伴わずにきた。即座に更迭を決めたとはいえ、それで不問に付される話ではない。政権の人権意識の欠如が厳しく問われねばならない。

 問題の発言は一昨日夜、8人いる首相秘書官の一人で、経済産業省出身の荒井勝喜氏が、首相官邸で記者団に語った。性的少数者同性婚をめぐり、「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「見るのも嫌だ」「認めたら国を捨てる人が出てくる」などと述べたとされる。

 首相の側近といっていい、重い公的な立場にある者の、差別意識丸出しの放言に、驚きあきれるほかない。オフレコを前提とした取材で本音が漏れたのか。問題視したメディアの報道が始まると、「秘書官として個人的な意見を言うのは適切でなかった」と全面的に撤回したが、「差別的な意識は持っていない」との釈明を、到底信じるわけにはいかない。

 首相はきのう朝、荒井氏の発言は「政権の方針と全く相いれない。言語道断だ」と述べ、早々に更迭を決めた。しかし、自身の先日の衆院予算委員会での答弁が伏線になったことを忘れてはならない。

 野党議員から同性婚法制化への賛否を問われ、慎重な検討が必要な理由として「すべての国民にとって、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べたことが、「社会はすでに変化している」「人権への配慮がない」などと、SNS上などで批判を浴びた。

 荒井氏の発言は、この時の首相答弁をめぐる、やりとりの中で出た。実際に意見を聞いたわけではないと、後から弁明したが、「秘書官室もみんな反対する」とも述べたという。

 朝日新聞の世論調査では、同性婚を「法律で認めるべきだ」は15年の41%から一昨年は65%となり、肯定的な意見が性別、年代、党派を超えて増えている。自治体が同性パートナーシップを公証する制度も広がっている。口では「多様性」が大事と言いながら、首相の周辺こそ、それに逆行する価値観が幅を利かせているのではないか。

 首相は昨年夏の内閣改造で、性的少数者を差別したり、ジェンダー平等を否定したりする言動を繰り返していた杉田水脈(みお)衆院議員を、総務省政務官に起用。昨年末に更迭せざるをえない状況に追い込まれるまで、かばい続けた。これでは、首相自身の人権感覚が疑われる。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら