原発の規制行政は「独立した意思決定」を重んじ、その過程を含め「情報の開示を徹底する」。それが東京電力福島第一原発事故の惨禍から学んだ重大な教訓だ。原則をゆるがせにしてはならない。

 岸田政権が進める原発の運転期間延長をめぐり、原子力規制庁が、経済産業省資源エネルギー庁と7回に及ぶ非公表の「面談」をしていた。電話でも数十回、やり取りしていたという。

 原発事故後、原発の規制は、経産省の傘下から、新設された原子力規制委員会に移された。規制委は環境省の外局で、規制庁はその事務局である。

 運転延長に対応する規制について、規制委が規制庁に検討を指示したのは昨年10月初めだった。だが、規制庁とエネ庁の面談は7月末から始まっていた。その間、規制委には報告せず、記録も残さなかったという。

 先月経緯が発覚すると、規制庁は「安全規制についての協議、調整、すりあわせは一切しておらず、独立性、透明性に問題はない」と説明した。

 しかし、面談では、エネ庁から規制委所管の法律を含む法改正案の検討が伝えられた。規制庁側は、安全規制関連の記述の削除を求めたり、自ら法案の検討を始めたりしていた。事前調整や協議ではないというのは、にわかには理解しがたい。

 一般論としては、役所間の情報交換は円滑な行政執行のうえで必要だ。しかし、規制委は独立性のために、推進側の経産省から分離された組織である。他省庁と同列視できない。

 規制委の山中伸介委員長は「最終的には委員会が決定することで、職員が検討することは問題ない」とも述べた。

 だが、独立性や透明性をうたう規制委の活動原則は、「規制庁とともに」職務を遂行すると明記している。原則は規制庁にも及ぶはずだ。事務局の動きを把握していなかった規制委の組織統治も問われる。

 深刻なのは、独立性の見極めに不可欠な情報開示の軽視だ。規制庁は、他省庁との面談は記録の対象外と説明したが、規制委から、今後は原子力関連の部署との面談の記録と公表を指示された。ただ、電話でのやり取りは引き続き対象外という。ルールとして十分なのか。

 規制庁のトップ3は、昨夏から経産省出身者が占めている。10月以降の運転延長をめぐる規制委の対応については、委員の中からも「時期尚早」との声が上がるような前のめりの姿勢が目立っていた。

 このうえ、今回のような事態をあいまいなままにすれば、規制への信頼が傷つく。徹底的な検証と結果の公表を求めたい。