国葬、割れる識者の意見 政府、論点7項目整理=訂正・おわびあり

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 政府は22日、9月に執り行われた安倍晋三元首相の国葬を検証するために、有識者に実施したヒアリングの結果を公表した。国葬実施の法的根拠など論点ごとの意見は割れた。政府は今後、国会の意見も聞き、国葬のあり方について引き続き検討するとしている。

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 岸田文雄首相は開催2日後の9月29日、ヒアリングなどを行って検証する考えを表明していた。ヒアリングは内閣府の国葬儀事務局が実施。50人近くの有識者に打診し、了解した憲法や政治学などの学識経験者、報道機関の幹部ら21人を対象に10月中旬から12月にかけて対面で行われた。

 公表された結果では、7項目の論点に整理した。ただ、意見の紹介にとどまり、結論は出さなかった。

 法的根拠をめぐっては「行政権の行使で法律上の根拠は必要ない」との主張があった一方、「民主主義社会の重要事項は法律の根拠を要する」といった意見もあった。国葬の実施基準については、「一定の実体的、手続き的ルールは定めた方がよい」との考えも示されたが、「最終的に総理大臣が判断するとしか定めようがない」など基準を作ることへの異論もあった。

 政府はあわせて、国葬にかかった費用も公表した。確定値は約11億9900万円で、10月に公表した速報値(約12億4千万円)を下回った。

 ■ルール整備は不透明

 政府の有識者ヒアリングの結果を受け、今後は国葬の是非や、行う場合のルール作りなどの検討が進むかが焦点になるが、先行きは不透明だ。

 国葬をめぐっては、費用や決定プロセス、あいまいな法的根拠などが問われた。世論の賛否も割れ、開催後の朝日新聞の世論調査では国葬の実施を「評価しない」が59%に上った。

 こうした世論を受けて首相は10月の国会答弁で「国会との関係など、どのような手順を経るべきなのか、一定のルールを設ける」と述べた。

 しかし、論点ごとに意見を整理する作業をようやく終えたばかり。「ルール作り」をめぐる議論はほぼ手つかずだ。首相も10月下旬の国会審議で国葬について「時の内閣が責任を持って判断すべき事柄だ」と後退した発言を繰り返した。

 検証作業に携わる政府関係者は「元々閣議決定と内閣府設置法に基づいてやっていた」として、新たなルールは不要だとの考えを示す。松野博一官房長官は22日の記者会見で「国会との関係など、どのような手順を経るべきなのか引き続き検討したい」と述べるにとどめた。

 検証プロセスに詳しく、数多くの第三者委員会の報告書の評価に携わった八田進二・青山学院大名誉教授は、国葬の検証について、「本来、検証の主体は主催者から独立した中立的な立場でないといけない」と指摘した。さらに、今後の作業スケジュールが不透明な点について「『ルール作り』に至るまでの手続きを透明化しないと、不信感が増幅する」と開示すべきだという考えを示した。(高橋杏璃、楢崎貴司)

 ■有識者ヒアリングの主な結果

 〈1〉法的根拠と憲法との関係

 ・行政権の行使で法律上の根拠は必要ない

 ・民主主義社会における重要事項は法律の根拠を要する

 〈2〉実施の意義

 ・国民が選んだリーダーを考え、振り返る機会としてあってよい

 ・暴力による言論封殺を絶対に許さないと内外に示した

 ・国民の間に対立、しこりだけが残る負の遺産を生んだ

 ・弔問外交の成果があったか判然としない

 ・極めて多くの国々の代表が列席したこと自体が大きな外交的成果

 〈3〉国会との関係

 ・国会に対する説明は特に必要ない

 ・国会の多数で選ばれた総理大臣が決めれば、国会へは事後報告でよい

 ・最上級の国家作用で国会の判断を介在させるのが自然

 ・議長、副議長、各党党首の意見を直ちに聞くことが望ましかった

 ・実施決定前に民主的なプロセスを踏むべきで、最低限、国会審議が必要

 〈4〉国民の理解

 ・国葬へのイメージが持てず不信感が生じたため、内容を丁寧に説明するべきだった

 ・安倍元首相の考え方や方向性を肯定するものではないことを強く言うべきだった

 ・国葬の例が少なく、中立派の多くは極端だと捉えたのではないか

 〈5〉対象者

 ・国が重視すべき価値について議論し、対象者の範囲を決める必要

 ・実施基準を作るのは不可能

 ・そのときの歴史の判断で決めていくのがよい

 ・一定の実体的・手続き的ルールを定めた方がよい

 ・最終的に総理大臣が判断するとしか定めようがない

 〈6〉経費や規模の妥当性

 ・妥当な規模だった

 ・全額税金から支出したことは重大な疑問がある

 〈7〉その他

 ・弔意を呼びかけないことは適切だった

 ・地方公共団体などに協力を求めなかったことは適当でない

 ・実施が遅きに失したことが最大の問題

 ・期間が空いた間に批判が高まった。日程設定と場所の確保が大きな課題

 ■政府がヒアリングした有識者

 池本大輔  明治学院大教授

 石川健治  東京大教授

 石埼学   龍谷大教授

 石田三千代 チャンネルニュースアジア上級特派員

 岩田温   日本学術機構代表理事

 上久保誠人 立命館大教授

 川上和久  麗澤大教授

 北岡伸一  東京大名誉教授

 君塚直隆  関東学院大教授

 榊原智   産経新聞論説委員長

 坂元一哉  大阪大名誉教授

 曽我部真裕 京都大大学院教授

 高橋正光  時事通信社解説委員長

 詫摩佳代  東京都立大教授

 武田真一郎 成蹊大教授

 豊田洋一  東京新聞論説主幹

 永井利治  共同通信社論説委員長

 西田亮介  東京工業大准教授

 細谷雄一  慶応義塾大教授

 南野森   九州大大学院教授

 宮間純一  中央大教授

 <訂正して、おわびします>

 ▼23日付総合3面「国葬 割れる識者の意見」の記事で、八田進二・青山学院大名誉教授について「数多くの第三者委員会に携わった」とあるのは、「数多くの第三者委員会の報告書の評価に携わった」の誤りでした。

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