(社説)観光船事故 国の責任は免れない

社説

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 知床半島沖での観光船事故の原因を調べている国の運輸安全委員会が、報告書を公表した。

 運航会社のずさんな安全管理の状況が、改めて明らかになった。同時に、こうした業者の運航を許した監査や検査に対する不信も、いっそう強まった。国の責任は免れない。小型旅客船の安全対策を着実に強化し、自らの対応の問題点も徹底的に検証する必要がある。

 運輸安全委によると、船前方の甲板上にあるハッチの留め具が摩耗し、航行中の揺れでふたが開いた。そこから海水が船内に流れ込む。船内の隔壁には穴が開いていた。水は穴を通って機関室に到達。エンジンが止まって動けなくなり、沈没した。ハッチと隔壁のどちらかが正常なら、沈没は免れたという。

 専門家によると、ハッチからの浸水は荒れた海での典型的な事故だという。今回の船はもともと瀬戸内海など穏やかな水域の仕様で、波が高い海では航行が難しかった。荒れやすい知床の海で命を預かる運航会社は、船の状態や、天候の変化に細心の注意を払う必要があった。

 だが実際はハッチの不具合を放置していたうえに、安定航行のために船尾に置くよう命じられていた重りを無断で船内の数カ所に移動し、下がった船首の甲板に波が入りやすくなっていた。事故当日、船長が同業他社から天候が悪化すると助言を受けたのに、社長は出航させた。安全をあまりに軽視した姿勢は、厳しく非難されるべきだ。

 こうした業者に、国は運航を認めていた。なぜ問題を見つけられなかったのか。運輸安全委は、「監査・検査の実効性に問題があった」ことも事故発生の要因の一つだと指摘した。

 ハッチの状態は、事故3日前に、国が委託した船舶検査機関が行った中間検査の対象になっていた。開閉試験をしたのか、目視での確認だったのか、国土交通省が確認中だ。一方、今回の航行区域では水密構造の隔壁は義務ではないため、検査項目ではなかった。安全に直結する場所であり、今後は確実に点検する対象に追加すべきだ。

 事故後の国の緊急安全点検では、安全訓練の未実施や運航記録簿の不記載といった問題が、全国で300件以上見つかった。国は監査体制や現行制度の見直しを進めている。抜き打ち・リモートによる業者監視の強化など多項目にのぼる。ただ、零細業者が多いこともあり、方針通りに安全対策が向上するのか気がかりな点もある。

 脆弱(ぜいじゃく)な安全管理体制を放置してはならない。多くの問題を見逃し、痛ましい事故につながった責任を重く受け止め、国は改善に努める必要がある。

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