(社説)防衛費の財源 国債発行は許されない

社説

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 政府が戦後初めて、防衛力整備を国債でまかなう方針を固めた。借金頼みの「禁じ手」を認めれば、歯止めない軍拡に道を開く。即座に撤回するよう首相に強く求める。

 首相は先日、27年度までの5年間の防衛費を43兆円に大幅増額する方針を示した。このうち約1・6兆円を国債でまかなう方向で検討していることが明らかになった。公共事業など投資的な経費に認められている建設国債を充てるという。

 戦後日本は、巨額の財政赤字を借金でまかないつつも、防衛費への充当は控えてきた。国債発行による軍事費膨張が悲惨な戦禍を招いた反省からだ。1965年に戦後初の国債発行に踏み切った際も、当時の福田赳夫蔵相は「公債を軍事目的で活用することは絶対に致しません」と明確に答弁している。

 以来、維持されてきた不文律を、首相は今回の方針転換で破ろうとしている。重大な約束違反であり、言語道断だ。

 自民党の一部は、海上保安庁予算に建設国債を充てていることを挙げて、自衛隊も同様に認めるべきだと主張してきた。だが、海保は法律で軍事機能が否定されている。自衛隊を同列に扱う理屈にはならない。

 財政規律は、ひとたび失われると回復が極めて困難になる。巨額の国債を発行し続ける戦後の財政の歩み自体がそのことを示しているはずだ。

 今回の国債は、老朽化した隊舎など自衛隊の施設整備に充てるという。だが、いったん国債を財源と認めれば、将来、戦車や戦闘機、隊員の人件費へと使途が止めどなく広がるおそれが強い。敵基地攻撃能力の保持に加え、財政上の制約までなくせば、防衛力の際限なき拡大への歯止めがなくなるだろう。

 戦前の日本は1936年の2・26事件以降、国債発行による野放図な軍拡にかじを切った。それを担った馬場えい一(えいいち)蔵相は、「私は国防費に対して不生産的経費という言葉は使わない」と言い放っている。投資を名分に防衛費を国債でまかなうのは、これと相似形ではないか。

 防衛費増額の財源では、歳出改革などによる確保策の実効性も疑わしい。復興特別所得税の仕組みを転用する案も浮上したが、復興のための一時的な負担という趣旨を踏まえれば、国民の納得は難しいだろう。

 国債発行を含めて無理な財源しか示せないのは、首相がGDP比2%という「規模ありき」で防衛費増額を決めたからだ。戦後の抑制的な安全保障政策の大転換を、拙速に進めることは許されない。国民的な議論を重ね、身の丈にあった防衛力のあり方に描き直す必要がある。

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