(社説)首相2%指示 防衛費増 規模ありきだ

社説

[PR]

 岸田首相が掲げる「防衛力の抜本的強化」は、内容、予算、財源をセットで決めるのではなかったのか。使途の具体的な説明がなく、財源の議論もこれからで、予算額だけ先に打ち上げるのでは、やはり「規模ありき」だったというほかない。

 首相が、防衛費に関連経費を加えた安全保障関連予算を、2027年度に国内総生産(GDP)比2%とするよう、防衛・財務両大臣に指示した。

 21年度の防衛費は補正を含めると6兆1千億円で、GDP比は1・09%。2%は約11兆円となり、防衛に資する研究開発や港湾などの公共インフラ整備の費用、海上保安庁予算や恩給費などを算入しても、兆円単位の大幅な増額になる。

 2%はもともと、北大西洋条約機構NATO)諸国の国防予算の目標だ。自民党は昨年の衆院選の公約に、この数値を「念頭」にした防衛力強化を掲げ、年末の安保3文書の改定に向けた今年5月の政府への提言にも盛り込んだ。

 しかし、日本とNATO諸国では、安全保障環境も歴史的経緯も異なり、予算の仕組みも違う。社説はこれまで、着実な防衛力整備の必要性には理解を示しつつ、費用対効果を吟味し、真に必要な予算を積み上げるのが原則だと主張してきた。

 この間、「3点セットで明らかにする」と、防衛力整備の水準への言及を避けてきた、首相の対応は不誠実だ。土壇場になって2%を追認したが、敵基地攻撃能力の保有について、まだ公式には結論が出ていないのに、長射程のミサイル導入を見込む予算の大幅増を決めるのは、順番が逆ではないか。

 首相の指示は27年度時点の水準だけで、来年度から5年間に要する予算の総額は示されていない。一方で、他の歳出の見直しに最大限努力することを前提に、安定財源の確保が不可欠だとして、「歳出歳入両面での措置」を決めるとした。事実上、増税の検討を求めたものだ。

 政府が設けた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」も、先日の報告書に、「幅広い税目による負担が必要」と明記している。

 自民党内からは「増税反対」「国債で対応しろ」の大合唱が聞こえる。1千兆円を超す国の借金を抱えながら、さらに野放図に将来世代にツケを回そうというのは無責任きわまる。

 ただ、身の丈を超えた負担増で、国民生活を疲弊させるようなことがあってはならない。また、いかなる増税も、国民の幅広い理解と協力が大前提である。国民への説明を後回しにする今の政権の進め方で、納得が得られるかは疑問である。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら