(社説)経済対策決定 財政規律の喪失を憂う

社説

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 財政規律が失われたと断じざるを得ない。経済活動が正常化しつつあるのに、政府与党は、コロナ禍下での異例の対応だったはずの巨額支出を、さらに続けるという。漫然と次世代に借金を押しつける無責任さに愕然(がくぜん)とする。

 政府は28日、事業規模71兆円の経済対策を閣議決定した。補正予算は29兆円で、大半を国債でまかなう。政府関係者によると、水面下の調整は一貫して、「総額ありき」だった。

 検討が本格化する前から、自民党萩生田光一政調会長が「30兆円を超える規模が必要」と発言し、昨年度の31兆円並みの規模を求める声が続いた。岸田首相も同調した。

 確かに足元の物価高は庶民の暮らしを直撃している。ただ、リーマン・ショック東日本大震災直後でも、補正は10兆円台だった。感染拡大を防ぐための「例外中の例外」だった昨年度の規模を維持するのは、理屈が立たない。

 調整の最終盤では、使途が明らかにされない予備費が、4・7兆円も上乗せされた。必要性が精査されていない予算が、つかみ金のように積み上げられていった姿を象徴している。

 国会の事前議決をせずに支出できる予備費は、財政民主主義の精神に反する。朝日新聞の社説は、最近の予備費の乱用に再三警鐘を鳴らしてきた。更に悪化させるのは論外だ。強く撤回を求める。

 総額ありきの議論には、低迷する支持率をてこ入れする狙いがあるのだろう。しかし、本来国民にアピールすべきは、具体的な中身だ。

 ところが、目玉に据えた電気代の負担軽減策は、困窮度合いにかかわらず一律に値引きする非効率な手法で、脱炭素社会の実現や節電にも逆行する。

 子ども1人あたり10万円の出産一時金制度も新設し、脱炭素技術の支援なども盛り込んだ。政府は、こうした継続的に取り組むべき施策は、財源確保と同時に進める方針を示していたはずだが、財源の検討は生煮えのままである。

 政策の優先順位や将来世代への負担を脇におき、総額を膨らませれば支持が得られるだろうという発想なら、次元の低さにあきれるばかりだ。

 英国では、トラス前首相が打ち出した大型減税策で金融市場が混乱した。財政規律に対する信認が失われれば、市場が制御できなくなることを肝に銘じる必要がある。

 国債残高が1千兆円を超える日本の財政は、先進国で突出して厳しい。コロナ禍で緩んだ財政規律を立て直せなければ、いずれ市場に見放されるだろう。

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