(社説)沖縄県知事選 県民の意思は明らかだ

社説

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 沖縄県知事に現職の玉城デニー氏が再選された。

 米軍普天間飛行場を移設するために名護市辺野古の海を埋め立てようという政府の方針に、知事選で3度連続して「ノー」の意思が示されたことになる。19年2月に行われた県民投票でも同様だった。

 沖縄の意思は固い。岸田政権はただちに工事を止め、代替策を探るべきだ。

 政権が推した前宜野湾市長の佐喜真淳氏は、移設容認の考えをはっきり打ち出した。同氏は4年前の知事選にも立候補している。このときは「国と県の動向を注視したい」とあいまいな態度に終始したが、今回は辺野古問題が明確な争点となったうえで、有権者の審判が出た。

 にもかかわらず、松野官房長官は会見で従来通り「辺野古が唯一の解決策」と述べた。「聞く力」を看板にかかげながら、都合の悪い意見には聞く耳を持たない。そんな政権の姿が改めて浮かび上がった。

 異論を無視し、既成事実を積みあげ、人々があきらめるのを待つ。交付金を恣意(しい)的に配分して、自らの意に従わせようとする。安倍・菅政権から続く問答無用の政治手法が、民主主義やそれを支える選挙制度への信頼をむしばんでいることに、目を向けなければならない。

 経費や効果の観点からも、辺野古一辺倒は合理性を欠く。

 本格的な埋め立ては18年末に始まり、広い土地が造成されたように見えるが、土砂の投入量は計画全体の11%にとどまる。

 予定地の北側半分の海底には軟弱地盤が広がり、防衛省の試算でも総工費は約9300億円と、当初の2・7倍になる。将来の地盤沈下対策などを考えれば、さらに費用がかさむことは間違いない。

 安全保障上、基地の維持は必須との声もあるが、中国のミサイル能力の向上に伴い、米軍は特定地域に部隊を集中させず、分散させる戦略に切り替えている。四半世紀も前に構想された辺野古移設に固執しなければならない理由はない。

 思考停止に陥ったまま基地負担を押しつけるのではなく、コロナ禍で傷んだ観光業への支援や医療態勢の整備、子どもの貧困対策などで、県を支えるのが政府のやるべきことだ。

 沖縄が日本に復帰して50年。その半分の年月を辺野古問題で振り回され、県民は望まぬ対立や分断を強いられた。復帰記念式典で当時の屋良朝苗(やらちょうびょう)知事が沖縄について述べた「歴史上、常に手段として利用されてきた」との言葉が、いまも真に迫る。

 一地域の犠牲の上に成り立つ安保や外交とは何なのか。本土の姿勢が問われ続けている。

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