(社説)「国葬」国会質疑 首相の説明 納得に遠く

社説

[PR]

 安倍元首相の「国葬」を表明した記者会見から約2カ月。岸田首相による国会での説明がようやく実現したが、その中身は従来の焼き直しがほとんどで、数々の疑問や懸念に率直に答え、納得を得るには程遠かった。このままでは、国葬とは名ばかりで、社会に亀裂を残したままの実施になりかねない。

 首相がきのう、衆参両院の議院運営委員会閉会中審査に出席し、質疑に応じた。報道各社の世論調査で、国葬への反対論が強まり、内閣支持率も下落するなか、追い込まれた末の対応であり、この間、説明責任から逃げ続けた姿勢がまず、厳しく問われねばならない。

 首相経験者の追悼は、内閣と自民党の合同葬が定着するなか、55年前の吉田茂の一例しかない国葬としたのはなぜか。首相は、憲政史上最長の在任期間▽経済や外交の実績▽諸外国からの弔意▽選挙中の非業の死――と、これまでの説明をなぞるだけで、国葬が安倍政権への評価を定め、自由な論評を妨げることにならないかという懸念に直接、答えることはなかった。

 朝日新聞の取材では、吉田の国葬を決めた際、当時の佐藤栄作首相が事前に野党の理解を得る努力をしたり、佐藤の死の際は、「三権の了承が必要」という内閣法制局長官の見解などを受け、国葬を見送ったりしたとの証言が明らかになった。

 国葬を具体的に定めた法令がないことを重視し、実施するなら、野党を含めた幅広い国民の理解が必要との認識に立ったものだろう。「行政権の範囲内」と繰り返す首相からは、先人が示した熟慮の跡はみえない。

 国葬の経費については、当初、会場設営費などに約2億5千万円と発表したが、国会質疑の2日前になって、別途、警備費に約8億円、外国要人の接遇費に約6億円との試算を明らかにした。これも、全体像を早く示すよう求める声に押されてのことで、納税者たる国民を軽く見ているというほかない。

 国葬が国民に服喪を事実上求めることにならないかという危惧に対しては、首相は「弔意を強制するものではない」と明言した。ただ、その旨を官公庁や自治体、学校に文書で伝えてほしいという要望は聞き流した。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と深いつながりのあった安倍氏の国葬が、教団の活動の是認につながらないかという指摘もあった。首相は、教団と関係を絶つという自民党の方針を強調する一方で、安倍氏が亡くなった今、両者の関係の把握には「限界がある」と、調査には相変わらず後ろ向きだった。こんな通り一遍の説明で、根深い不信が解けるわけがない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら