(社説)マイナンバー 地方交付税ゆがめるな

社説

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 ものごとが進まないときに必要なのは、真の原因に向き合うことだ。政府がそれを怠り、筋違いの促進策に熱を上げる。あきれざるをえない光景だ。

 政府が、自治体ごとのマイナンバーカードの交付率を、地方交付税の額に反映させる方針を打ち出した。住民がカードを取得した率が高い自治体には、交付税の配分を増やす。先月閣議決定した「デジタル田園都市国家構想」の基本方針に盛り込まれた。

 この方針には「交付率を普通交付税における地域のデジタル化に係る財政需要の算定に反映することについて検討」と書かれている。カードを使ったデジタル施策の費用に充てるために配分を増やすという理屈のようだが、到底納得できない。

 そもそも政府はマイナンバー制度の目的の一つに、「様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減される」ことをあげてきたはずだ。カード普及でコストが増えるのであれば、「行政の効率化」との説明はウソだったことになる。

 システムや関連機器などの初期投資が一時的にかさむことは考えられる。その経費の支援ならば補助金を出すべきで、交付税に差をつけるのは筋違いだ。

 交付税は、すべての自治体が一定の行政サービスを行う財源を保障するために、国が自治体の代わりに徴収し、財源の不均衡を調整するものだ。この「地方固有の財源」を、国策の推進に用いるのは、明らかに交付税の精神に反する。

 なぜここまで理の通らないことをしようとするのか。

 政府は今年度末までにほぼ全国民にマイナンバーカードを交付する目標を掲げる。だが、6月末の交付率は約45%に過ぎない。総務省は5月分から、全市区町村の交付率を高い順に並べた表を公表し始めた。

 今回の方針について、政府は表向き「政策誘導ではない」(金子総務相)という。だが、交付税をてこに、自治体に圧力をかける目的があるとみられても仕方がないだろう。

 マイナンバーカードの普及を図るため、政府は多額のポイントを配布している。健康保険証を将来的に原則廃止し、このカードに一元化するという。

 行政のデジタル化の基盤としてカードを広めたいとの意図は分かる。ただ、取得が進まないのは、国民がカードの利点を実感できず、個人情報が漏れたり悪用されたりするのではという不安も払拭(ふっしょく)されていないからではないか。

 根本的な問題の解決こそが求められていることを、政府は心すべきである。

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