(社説)科学を元気に 現状打破へ若手の挑戦

社説

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 いまの閉塞(へいそく)状況に風穴をあける一つのきっかけとなるか。関心をもって見守りたい。

 「日本の科学を、もっと元気に」を掲げ、若手研究者が中心になって設立したNPO法人・日本科学振興協会(JAAS)が先日、第1回総会を開いた。人文・社会系も含めて賛同者は約800人。学者はもちろん、学生、企業関係者、弁護士なども名を連ねた。

 日本学術会議日本学士院のような、国を代表する科学者でつくるアカデミーはある。これに対し、JAASは科学に関わる人々に開かれた普及団体だ。4年前から活動が始まり、準備委員会にはノーベル賞受賞者で学術会議会長の梶田隆章さんもアドバイザーに名を連ねた。

 同様の組織に米国科学振興協会(AAAS)や英国科学振興協会がある。AAASは170年の歴史と12万人超の会員を擁し、有力科学誌サイエンスを発行するなど、教育普及や政策決定にも積極的に関与している。はるかに先をゆく存在だが、対話と協働で科学の発展をめざす志に変わりはない。

 準備委員会はさまざまな課題について意見を交換してきた。提言をまとめて発表するだけでなく、それを官僚や政治家、産業界などに直接届けて議論する。先の国会で成立した10兆円の大学ファンドを設ける「国際卓越研究大学法」をめぐっても、閣僚や与野党の議員と対話を続けた。こうした事実が示すように、敬遠されがちだった政治への働きかけにも、取り組んでいくという。

 たしかに実をあげるには、一歩踏み出し、現実と切り結ぶ必要がある。一方で、政治との距離を見誤ると、為政者に利用され、結果として学術をゆがめてしまう恐れをはらむ。その危うさを自覚し、憲法に学問の自由が書きこまれた歴史と意義を忘れずに、時の権力にとって耳の痛いことも言う。そんな組織でなければ、広範な社会の支持や信頼は得られまい。

 人々とのキャッチボールを絶やさず、新たな集合知を生み出して存在感を高められれば、アカデミーと普及団体の両輪がかみ合い、設立の目的に近づいていけるだろう。

 公的機関や既存の組織からではなく、自主的な活動から生まれた意味も考えたい。伸び盛りの若手が貴重な研究時間を犠牲にしてでも動いたのは、目先の成果を求める政策によって、研究の基盤がゆらいでいることへの危機感の表れに他ならない。

 政治・行政はもちろん、結果としてこの状況を招いてしまったベテラン研究者も来し方を反省し、これからの進路を若手とともに探る必要がある。

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