憲法は、国のあり方を定める最高法規である。幅広い国民の理解のうえに、与野党をこえた丁寧な合意形成が不可欠だ。発議に必要な数を集め、期限を切って結論を急ぐようなら、議論の土台を崩すことになる。

 今回の参院選の結果は、日本の針路を大きく左右する可能性をはらんでいる。安全保障をめぐっては、戦後の抑制的な政策を維持するのか、敵基地攻撃能力を含む防衛力の抜本的な強化にかじを切るのかが、問われている。憲法に対する各党の姿勢も、重要な論点のひとつだ。

 自民党は自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を引き続き公約に掲げ、「早期の実現」をうたう。統治機構改革などを優先していた日本維新の会が、自衛隊を明確に位置づける9条改正と緊急事態条項の創設を加えたことで、共通点が広がった。国民民主党も緊急事態に議員の任期を特例で延長する規定の創設など、憲法論議に積極的だ。

 一方、公明党は与党だが、違憲論解消のための自衛隊明記は検討事項にとどめ、賛否を明らかにしていない。野党第1党の立憲民主党は「論憲」の立場から、衆院の解散権の制約などの議論は深めるとしながら、自民の9条改正案には、戦力不保持・交戦権否認を定めた2項の法的拘束力が失われるとして、反対を明確にする。共産党は9条だけでなく、「前文を含む全条項」を守るとした。

 各党の議論が集約されつつあるとは、とてもいえないのが現状だ。そもそも自民の4項目は4年前、任期中の改憲に意欲を示し続けた安倍元首相の下でとりまとめられた。その後、進展がみられないのは、中身よりも、憲法を変えること自体を目的とするような態度が、野党の不信や警戒を招き、国民の支持も得られなかったためだ。

 岸田首相は日本記者クラブでの党首討論会で、維新が求めたスケジュールの明示には応じなかったが、「中身において、(改憲発議ができる)3分の2が結集できる議論を進めていきたい」と語った。「安倍改憲」の頓挫を直視し、「改憲ありき」を繰り返してはならない。

 コロナ禍やロシアのウクライナ侵略が、改憲の追い風になるとの見方もあるかもしれない。確かに、パンデミックへの備えや日本の安全保障のために何が必要かの議論は重要だ。ただ、法改正では対応できないのか。改憲が求められるなら、どの条文をどうするのか。そうした具体論を欠いたままでは、国民の理解が広がることはあるまい。

 熟慮と議論を重ねて共通認識を導く。憲法論議こそ、とりわけ熟議が求められることを忘れてはならない。