参院選がきょう公示される。

 発足直後の昨秋の衆院選で国民の信任を得て、本格的にスタートした岸田政権のこの間の評価が問われる選挙である。

 この後、衆院の解散がなければ、補欠選挙を除き、国政選挙は3年間ない。有権者が投票を通じて、国政に声を届ける機会はしばらく遠のく。

 岸田首相の政権運営を、このまま後押しするのか、与野党の緊張関係を通じたチェック機能に重きを置くのか。政権選択選挙ではないが、今後数年にわたる日本の政治の土台と針路を左右する重い選択になる。

 ■首相への吟味厳しく

 「安倍1強」といわれた7年8カ月に及ぶ第2次安倍政権と、その継承をうたいながら、1年で退陣した菅政権。その後を継いだ首相は、森友・加計・桜を見る会など、長期政権が残した「負の遺産」の清算には見向きもしなかった。しかし、「丁寧で寛容な政治」「聞く力」を前面に、強権的な手法が目立った2人の前任者とは対照的な政治姿勢が持ち味だ。

 新型コロナの第6波を、緊急事態宣言を出さずにひとまず乗り切り、ロシアのウクライナ侵略に対しては、厳しい対ロ制裁で米欧諸国との結束を示している。26年ぶりに政府提出法案を100%成立させるなど、初めて臨んだ通常国会は終始与党ペースで進み、内閣支持率も高い水準を維持している。

 一方で、看板政策の「新しい資本主義」については、今月になってようやく実行計画を閣議決定したが、当初の「分配強化」の理念は消え、過去の政権が示した成長戦略の焼き直しに終わった。コロナ対策では、参院選前に過去の発言と帳尻を合わせるように、内閣感染症危機管理庁の創設を打ち出したが、これまでの対応の徹底検証という約束は果たされていない。

 首相がめざした政策の何がどこまで実行され、何が変質し、見送られたか。参院選ではまず、この間の政権の実績が厳しく吟味されなければならない。

 ■物価高・安保が論点

 きのうは日本記者クラブで、与野党9党首による討論会が開かれた。冒頭、一番訴えたいことを語ってもらったところ、ほぼ全員が物価高対策をあげた。国民生活を守るのは政治の役割であり、喫緊の最重要課題と位置づけるのは当然だ。

 討論会に先立って、首相は政府の物価・賃金・生活総合対策本部の初会合を開き、飼料や肥料などの食料品の生産コストを抑えるための支援金や、節電に協力してくれた家庭にポイントを付与する制度の創設などを表明した。政府は物価高を放置しているといった、野党の批判をかわす狙いが透けてみえる。

 一方、立憲民主、維新、共産、国民民主など、野党各党は消費減税を公約に盛り込み、国民民主は一律10万円の「インフレ手当」も掲げる。施策の実効性やメリット・デメリット、財源の詳しい説明が必要だ。

 ロシアのウクライナ侵略を受け、日本の安全保障に対する国民の不安や関心が高まっていることは間違いあるまい。政府は年末に向けて、「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の3文書の見直しを進めており、参院選後に作業は本格化する。外交・防衛をめぐる論戦は、これまで以上に重みを増した。

 自民党の公約には、国内総生産(GDP)比2%以上も念頭に、5年以内の防衛力の抜本的強化をめざすとあるが、首相はきのうの討論会でも、「数字ありき」ではないと繰り返し、規模感や財源には触れようともしなかった。まさか白紙委任してくれというわけではあるまい。有権者が将来を選択できるように、敵基地攻撃能力の保有も含め、選挙戦の中で具体的な考えを明らかにすべきだ。

 ■投票率向上への責任

 参院選の帰趨(きすう)を決めるとされる32の1人区すべてで、野党は過去2回、候補を一本化して臨んだ。しかし、今回は足並みがそろわず11にとどまる。

 共闘をリードできなかった立憲民主党。同党に代わり野党第1党の座をめざすという日本維新の会。岸田政権の当初予算に賛成するなど、事実上の与党として振る舞う国民民主党。与党か野党か、だけではない。野党の中でどの党が国民の支持を得て勢力を伸ばすかは、選挙後の政治の行方に影響を与える。

 1人でも多くの有権者に選択の1票を投じてもらいたい。しかし、国政選挙の投票率は近年、低迷している。参院選でみると、3年前の前回は48・80%と過去2番目の低さ。2人に1人が棄権という深刻な事態だ。概して参院選より投票率が高くなる衆院選も、昨秋は55・93%と戦後3番目の低さだった。

 7月10日の投開票まで、きょうから18日間の選挙戦が始まる。与野党双方が、より多くの国民の関心を喚起するような、論戦と働きかけに努めねばならない。低投票率は与党も野党もない、政治全体に対する不信の表れと受け止めるべきだ。