核兵器は絶対に使われてはならない。国際社会が結束し、そう訴えることが今ほど必要な時はない。被爆国・日本には、その先頭に立つ使命がある。

 核兵器禁止条約の初めての締約国会議が今月下旬、オーストリアで開かれる。核の脅しにまで踏み込んだロシアによる侵略戦争が続くさなかである。

 核禁条約は、いかなる理由のもとでも、核の保有や使用・威嚇をすべての加盟国に禁じる。昨年1月に発効し、60を超す非核国・地域が批准した。

 核保有国の間で強まる軍拡の流れに抗し、「核なき世界」の目標を掲げ続けるために、この初会合が待たれていた。

 参加資格は国連の全加盟国にある。署名・批准をせずとも、オブザーバー(傍聴)としての出席を選ぶ国もある。米欧などの軍事機構NATO加盟のドイツ、ノルウェーのほか、NATO入りを表明したスウェーデン、フィンランドなどだ。

 米国の「核の傘」に入りつつ、核廃絶をめざす議論の輪に加わることは矛盾しない。ロシアの脅威に対処しながらも、長期目標を見すえる意志がオブザーバー参加の国々にはある。

 だが日本政府は、核保有国を巻き込まなければ意味がないとして、不参加の姿勢を変えていない。広島・長崎の惨禍を知る国が、この場に不在となることが国際社会の目にどう映るか。残念至極というほかない。

 岸田首相は広島選出の政治家であることをアピールし、核禁条約も「出口として重要」と評してきた。日米同盟を重視する立場は理解するが、そうであればこそ米国を説得し、堂々と参加するのが平和外交の本懐ではないか。

 他方で政府は、被爆の実相を世界に伝えてほしいとして、核廃絶運動に取り組む若者たちを「ユース非核特使」に任じて会議に派遣するという。選ばれた大学生の高橋悠太さん(21)は「実相を広く伝えたいなら、なぜ政府が自ら参加しないのか。大きな矛盾を感じる」と言う。もっともな思いだろう。

 条約会議の前日には、「核兵器の人道的影響に関する国際会議」もあり、政府は被爆者2人を含む代表団を派遣する。8年ぶり4回目のこの会議は、核禁条約を生みだす土台となった。核兵器の非人道性を、しっかりと証言してもらいたい。

 冷戦期に「使えぬ究極兵器」とみなされた核兵器は、小型化と拡散が進み、使用のハードルを下げる動きが目立つ。偶発的な事故などの恐れも常にある。

 核軍縮・軍備管理と廃絶への方策をどう両立させていくか。困難であっても、その実現に向けて挑み続けねばならない。