(社説)日米首脳会談 対中 力に傾斜の危うさ

社説

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 透明性を欠く軍拡を続け、既存の秩序に挑む中国の対外政策が、地域に緊張をもたらしているのは紛れもない。だが、力による対峙(たいじ)を強め、経済安全保障の名の下に、相互依存関係の切り離しを進めるだけでは、平和と安定は保てない。米国の前のめりな姿勢を抑え、対話や信頼醸成の取り組みを交えた共存の道を探ることこそ、中国の隣国でもある日本の役割だ。

 米国のバイデン大統領が来日し、岸田首相と対面による初の本格会談を行った。共同声明では、ロシアのウクライナ侵略を厳しく批判。ルールに基づく国際秩序が挑戦を受けているのは欧州だけではないとして、「自由で開かれたインド太平洋」の推進をうたった。

 欧州の安全保障が国際政治の焦点となるなか、米国がアジアの秩序の維持にも積極的に関与しようという姿勢自体は評価できる。ただ、危うさを禁じ得ない。それが端的に示されたのが、共同記者会見での台湾問題に関するバイデン氏の発言だ。

 共同声明では、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を改めて確認し、問題の「平和的解決」を促した。一方で、バイデン氏は会見で、中国が台湾に侵攻した場合、軍事的に防衛に関与するかと問われ、2度にわたって肯定した。

 歴代の米政権は、中国、台湾双方に言質を与えず、大胆な行動に出ないようにと、態度を明確にしない「あいまい戦略」をとってきた。共同声明に「台湾に関する両国の基本的な立場に変更はない」と明記しながら、この言明は、従来の方針を転換したものと受け止められて当然だ。その影響をどこまで吟味したうえでの発信だったのか。

 両首脳は同盟の抑止力と対処力の強化で一致。首相は「あらゆる選択肢」を排除しないと、敵基地攻撃能力の検討を伝え、防衛費の「相当な増額を確保する決意」も表明した。バイデン氏が呼びかけたインド太平洋地域の新たな経済枠組み(IPEF)への参加も明らかにした。

 ロシアの侵略に正当性は全くないが、北大西洋条約機構NATO)など西側諸国が、ロシアを巻き込んだ秩序づくりに成功していれば、違った展開もありえただろう。互いの意思疎通を欠いたまま、包囲網ばかりを強め、力に傾斜した先に何が起こりうるのか。欧州の歩みからくみ取れる教訓もあるはずだ。

 滞りがちなハイレベル対話を軌道にのせる。偶発的な軍事衝突を避ける海空連絡メカニズムの構築を急ぐ。日米同盟が基軸で、防衛力の着実な整備が必要だとしても、単に追随するだけではない、日本自身の主体的な対中政策が問われている。

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