(社説)観光船遭難 尊い命なぜ失われた

社説

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 重大な海難事故が発生した。

 乗客24人と乗員2人を乗せ、北海道・知床半島沖を航行していた観光船がおととい午後、消息を絶った。その後、乗っていたとみられる人々の死亡が相次いで確認されたが、依然として多くが行方不明のままだ。

 地元漁協などの協力を得て、海上保安庁や警察が捜索にあたっている。事故発生から時間が経ち、水温・気温ともに低いことを考えると、状況は極めて深刻と言わざるを得ないが、救助に全力を挙げてほしい。

 世界自然遺産に登録された知床には、雄大な自然を求めて多くの観光客が訪れる。車が通行できない場所が多いため、先端の岬や断崖、滝、ときに野生のヒグマなどを海上から眺められる観光船の人気は高い。

 しかし付近の潮流は速く、海底には暗礁が広がる。05年と19年にも、岩に乗りあげるなどした船の乗客が重軽傷を負う事故が起きた。今回遭難した観光船からの連絡が途絶えた「カシュニの滝」周辺も、難所として知られる。

 おとといは、冬季の休業を経て、この観光船を運航する会社が営業を再開した矢先だった。だが知床半島一帯には強風・波浪注意報が発令され、特に午後からはさらに風が強くなって海がしけると予想されていた。漁に出ていた漁船は正午ごろには港に戻ったという。

 そのような天候の下で観光船を出発させたことに無理はなかったのか。会社内で事前にどんな検討がなされたのか。関係機関は救助活動とあわせて、事故に至る経緯を明らかにし、原因の解明と再発の防止に努めなければならない。

 国土交通省によると、遭難した船は昨年5月に海上の浮遊物に接触する事故を、翌月にも座礁事故を起こしている。北海道運輸局は安全確保を求める行政指導をし、今月20日には船舶検査もパスしたというが、今回の事故との関連の有無は気になるところだ。この疑問にこたえるためにも、船体のすみやかな発見が望まれる。

 まもなく大型連休が始まる。コロナ禍の収束はなお遠いが、昨年、一昨年に比べて、人の動きは活発になりそうだ。山や川を含む全国の行楽地が大勢でにぎわうことだろう。

 訪れた人が「せっかく来たのだから」と予定の日程をこなそうとし、迎える側も「来てくれたのだから」「稼ぎ時だから」と力を入れる。理解できるが、どちらも無理は禁物だ。

 自身の体調、気象条件、機器の整備、稼働させるまでの手順――。それぞれに万全の注意を払い、安全を最優先にした行動を徹底してもらいたい。

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