(社説)予備費の乱用 立法府の自己否定だ

社説

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 政府の予算を十全に審議することは、国会の最も重要な機能の一つだ。その役割が「予備費の乱用」というかたちで、ないがしろにされようとしている。財政民主主義の危機であり、見過ごすことはできない。

 自民、公明両党がおととい、2兆5千億円以上の物価高対策で合意した。ガソリン価格の高騰を抑える補助金を拡大し、期限も9月まで延ばす。生活に困る子育て世帯に、子ども1人あたり5万円を支給する。地域の実情に応じた支援ができるよう、自治体向け交付金も積み増す――といった内容だ。

 エネルギーや食料品が急に値上がりする中で、困窮する家庭や事業者への支援は必要だ。だが、それをどういう手段や規模で実行するかについては国民や政党の間で様々な意見がある。財政資金を使う以上、使途と額を国会で議論するのが当然だ。

 ところが、両与党の合意では対策のほぼ半分を、今年度の予備費からまかなおうとしている。国会の新たな議決を経ることなく、閣議決定だけで支出できる財源を充てるというのだ。

 憲法は、予算は国会の審議と議決を経る必要があるとした上で、「予見し難い予算の不足に充てるため」に予備費計上を認めている。確かに、ウクライナ情勢は想定外の事態ではある。

 だが一方、いまは国会の会期中であり、補正予算を審議できる環境にある。会期中の予備費の使用は、閉会中以上に抑制的でなければならない。既存制度への予算追加や災害対応、その他軽微な経費に限ることを、政府も閣議決定で繰り返し確認してきている。今回のような新しい政策判断に基づく支出に充てるのは、明らかに禁じ手だ。

 岸田首相は「迅速な対応」の必要性を強調するが、ロシアの侵攻開始から2カ月が経とうとしている。両党合意では、6~9月分のガソリン高対策費は補正予算を組むというが、まず予備費を財源に枠組みを既成事実化してから、追加分を国会に出すことになり、本末転倒だ。

 しかも、この補正では、今年度の予備費をさらに積み増し、コロナ対策に限定していた使途も、物価高対策に拡大するという。朝日新聞の社説は、20年度以降の巨額の予備費計上が、国会の予算監視を形骸化させる恐れを指摘してきた。さらに使途拡大を認めれば、政府への予算の白紙委任が定着しかねない。巨額の赤字国債の発行を積み重ねてきた財政規律の緩みが、一段と進むことになるだろう。

 近代議会は、予算や徴税の権限を国王から国民の代表に移すことから始まった。その権限を放棄するのは議会の自己否定にほかならない。

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