(社説)反撃能力提言 危うい本質は変わらず

社説

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 憲法に基づく専守防衛の原則から逸脱するとともに、軍拡競争により、かえって地域の不安定化を招く恐れがある。本当に日本の安全を守る抑止力になるのかにも多くの疑問がある。岸田政権には、軍事偏重ではない、外交努力も含めた総合的な戦略の構築こそが求められる。

 自民党の安全保障調査会が、政府が年末に策定する国家安全保障戦略などに向けた提言案をまとめた。来週、岸田首相に提出する。戦後、日本が堅持してきた抑制的な安保政策の転換につながる内容が含まれており、看過できない。幅広い視点から、徹底的な議論が必要だ。

 その最たるものが、第2次安倍政権から検討が引き継がれた「敵基地攻撃能力」の保有だ。

 名称こそ「反撃能力」に改めたが、攻撃を受けた場合の反攻だけが想定されているわけではない。安保調査会長の小野寺五典防衛相は、敵が攻撃に着手したと認定すれば攻撃が可能と説明する。ただ、その見極めは困難で、判断を誤れば国際法違反の先制攻撃になりかねない。危うい本質に変わりはない。

 提言案は、ミサイル技術の急速な進展で迎撃が困難になっており、反撃能力の保有で「攻撃を抑止」するという。しかし、膨大なミサイルを持つ相手に対し、その使用を思いとどまらせるのに、どれだけの備えが必要になるか。そもそも、目標を正確に把握する能力があるのか。抑止が破綻(はたん)し、攻撃を受けた場合にどう対処するのか。実際問題としても、多くの無理があると言わざるをえない。

 しかも、今回は、相手国のミサイル基地に限らず、その「指揮統制機能等」も対象に含むと明記された。軍の司令部だけでなく、国家の中枢まで標的にされると受け取られても仕方あるまい。それが抑止につながるとの考えかもしれないが、警戒を強めた相手国の先制攻撃を誘発するリスクも否定できない。

 提言案は、専守防衛が求める「必要最小限度の自衛力」について、「その時々の国際情勢や科学技術等の諸条件を考慮し、決せられる」とした。専守防衛を掲げつつ、実質的に空洞化する狙いではないのか。

 防衛費については、北大西洋条約機構NATO)諸国が目標とする対GDP(国内総生産)比2%以上を念頭に「5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」とした。現状は1%程度であり、財政が逼迫(ひっぱく)するなか、5年で倍増が現実的な目標か。厳しさを増す安全保障環境を踏まえた、着実な防衛力整備の必要性は理解できるが、費用対効果を吟味しながら、真に必要な予算を積み上げていくことが大原則である。

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