(社説)誤認起訴 真相と責任を明らかに

社説

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 異例ずくめの経緯をたどった末、数々の疑問を残したまま、多くがうやむやのうちに時だけが過ぎてゆく――。

 そんなことがあってはならない。関係者、とりわけ迷走した捜査当局と市民の代表からなる市議会には、その原因と真相を明らかにし、説明責任を果たすことが求められる。

 高知市の東、人口3万3千人の香南(こうなん)市で起きた公共工事の入札情報漏洩(ろうえい)事件である。

 高知県警は昨年9月、市の担当課長、市議(その後辞職)、建設業者を逮捕した。課長が市議に情報を漏らし、それを市議から聞いて落札した業者がお礼で市議に商品券を贈った。これが県警の描いた構図だった。

 ところが3人を起訴した高知地検が初公判直前の12月、課長の起訴を取り消し、情報を漏らした者を氏名不詳の「市職員」に変更する手続きをとった。地裁はこれを認め、おととい、市議に執行猶予つきの有罪を言い渡した。別途審理されている業者側は、情報を漏らした職員が不明であることなどを理由に、無罪を主張している。

 県警と地検の捜査に問題があったのは明らかだ。

 課長は任意聴取の段階から関与を否定したというが、通算で67日間拘束された。地検が立証の柱としていた市議の供述の信用性に疑問を持ち、起訴を取り消したこと自体は評価してよい。とはいえ、結果として不当な逮捕・勾留をかさね、かつ漏洩者を特定できないという失態を招いた罪は重い。

 捜査の過程を検証し、まず課長に謝罪するのが筋だ。業者の公判が続いていることを理由に先延ばしするようでは、信頼の回復はおぼつかない。

 人間である以上、間違いをなくすことはできないが、強大な権限をもつ捜査機関が道を誤ったとき、周囲に及ぼす影響は甚大だ。携わる全ての者はその自覚を持ち、基本に忠実な捜査に徹してもらいたい。

 同市をめぐる混乱は捜査当局の見立て違いにとどまらない。

 市議は12月の初公判で突然、情報は市長から聞いたと発言。市長は漏洩を否定する一方で、問題の業者から商品券を受け取った事実を公表し、道義的責任をとるとして辞職した。

 課長が逮捕された当時、「ゆゆしき事態で厳正に対処する」と話していた市長まで、あいまいな理由で表舞台から姿を消す。釈然としない思いを抱く人は多いのではないか。

 辞職で幕引きとせず、市長―議員―業者の関係の解明に独自の立場で取り組み、それを生んだ土壌をただす。市民の立場から市政をチェックする議会が、その責務を果たすときだ。

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